第13話 愛情と性欲は紙一重
「俺には小学生の頃に、瑞葉と美緒っていう二人の幼馴染がいてさ、とっても仲が良かったんだ……ってこの話は前にもしたな」
どういうわけかこの話を誰かにするときは、同じような前置きじゃないと話せなくなってしまっていた。
馬鹿だった自分の失態を赤裸々には告げたくないのか、
あることを境にそれはギクシャクしたものへと変わっていくんだけどな。
「たしか片方は、私と同じ名前だったよね?」
濡れそぼった体を惜しげも無く晒して話を聞く美緒との距離は厚紙一枚ほどしかない。
「そうだな。でも名字は違うぞ?幼馴染の美緒は
ベッドの上での彼女の素顔に俺は幼馴染の美緒を重ねてしまうことはあったけど、引っ込み思案の美緒ならこんなに大胆には迫ってこないだろうという結論に至っている。
それに今、俺の目の前にいる美緒は経験豊富そうだったから尚更、幼馴染の美緒とは思えなかった。
「瑞葉との付き合いは、中学三年まで続いたよ。お互い性意識みたいなものが芽生え始める時期だったから中学に入ったらすぐに体も重ねた」
「何だか盛りのついた猿みたいね」
美緒はクスクスと笑った。
「そう言う美緒だって、とっくに処女は捨ててただろ?」
あっという間に一線を超えた俺達の行為は、しかしどちらも手慣れたものだった。
「私も同じ頃に捨てた気がするわ」
「だったらそっちも一緒じゃねぇか?」
人のことを「盛りのついた猿みたいね」なんて言えた義理じゃないだろ。
「今思えば、自分を変えたかったとか刺激が欲しかったとかそんなところね……。私のことはどうでもいいから続き、聞かせてよ」
「そうだな……。結局のところ瑞葉との関係を終わらせたのは俺だった。結局、友情としての好きと恋愛としての好きを履き違えたまま、俺は瑞葉と付き合っていたんだ。最低だろ?」
自嘲じみた薄く乾いた笑いが漏れる。
「別れようって話は出なかったの?」
「それは俺の側から何度も切り出した。でもその度に、瑞葉に丸め込まれて別れられなかった」
結局、目覚めた上に深く足を突っ込んでしまった性意識に、俺は友情と恋愛を履き違えただけでなく愛情と性欲さえも履き違えていたのかもしれない。
「性欲は子孫を残そうっていう本能的なもの。そのためにパートナーを探す。そのパートナーとの間に芽生えるのが愛情。好きだからセックスしたい。セックスできるから好き。これは生物としての摂理だし仕方ないと思う。だから自分を蔑むような真似はしなくてもいいよ?」
上目遣いのままに美緒は俺の頬に手をあてながら言った。
「でもそこに甘えて、二人にとって何の得もない無為な時間を送ってしまったんだ」
今思えば、瑞葉との関係は後悔しかない。
どうしてもっと早く別れをキッパリと告げられなかったのかって。
「そこに甘えていたのは瑞葉さんも同じよ。自分の体を対価にすれば怜斗くんの愛を買えるとすら思ったかもしれない」
「言われてみればそうなのかもしれないな……」
だが俺は美緒にそう言われてもなお、自責の念にかられずにはいられない。
だから今の美緒との関係もそうなる前に早く抜け出さなきゃいけないとさえ思う。
「でもなんで、そんな過ぎた話で今になって悩んでいるの?」
「別れるときに、俺はキツい言い方をして別れたんだ。多分それは瑞葉を傷付けてしまったに違いない」
今日こそ瑞葉との関係を終わろう、そう自分に言い聞かせた俺はあの日、素直に思っていることを瑞葉に告げた。
『あのさ、もうこの関係を止めないか?これ以上は瑞葉を傷付けたくない。どうしたって俺は美緒のことを忘れられないし、心の整理が未だにつかないままなんだ』
ギクシャクしたまま、言葉を交わすことも減りフェードアウトしていった美緒との関係。
そこに踏ん切りをつけれないままダラダラと瑞葉との関係を続けてしまったのだと俺は包み隠さず話した。
泣きじゃくる瑞葉にどんな言葉をかけたらいいのかも分からず、その日を境に瑞葉と話すこともなくなった。
もう出会わなければお互い干渉することもない、そして思い出すこともないだろうと思って地元からは離れた高校に進学することを決めた。
「今朝、そんな瑞葉からメッセージが届いたんだ。久しぶり、元気してる?って」
答える資格が俺にはあるのか、どんな顔で返事を送ればいいのかも分からない。
「そういうことだったんだね。いいんだよ、普通に送れば。話を聞いてる限り第三者からすれば、そんなのお互い様って思うよ。現に私はそう思うから」
美緒の言う通りなら互いを利用しあっていただけっていう解釈にもなりうるってことか……。
「わかったよ。ありがとう」
おかげで楽になった。
事情を知らない誰かに話せば楽になるってのは本当だったんだな。
「あ、でも送ったメッセージは私に見せること!」
腰に片手をあて、もう片方の手は人差し指を立てて美緒は言った。
「何でだ?」
「女の子の気持ちは女の子が一番よくわかるの」
なるほどそういうことか……。
「それとせっかくこんな近い距離に私が居るんだから、もうちょっと頼ってくれてもいいんだよ?」
セフレを超えて同居人になりつつある隣の部屋のクラスメイトは、恥じらいつつもそう言った。
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