第14話 早見さんのお願い
「ねぇ和泉くん、一つお願いがあるんだけどさ」
金曜日の放課後、早見さんが俺の机へとやって来た。
「俺にできることだったら聞くけど……?」
ただのクラスメイトというだけで特に交友関係があるわけでもない早見さんが俺に頼むことなんてあるんだろうか。
「もう四月も終わりだよね」
「そうだけど?」
もうゴールデンウィークはすぐそこだ、だがそれが早見さんが俺に頼みたいこととどう関わりがあるのかはさっぱり分からない。
「ほら、5月の第二日曜日って何の日かな?」
「何かの記念日なのか?」
「んもう!ひょっとして和泉くんは親不孝だったりするのかな?」
「世間一般で見れば親孝行な男子高校生の方が少ないと思うけど……」
早見さんと話していると美緒が隣へとやって来てそっと耳打ちをした。
「早見さんが言いたいのは多分母の日ね」
「えっ二人、距離近くない?」
早見さんはどこか呆れたように言った。
「それはもう毎日しっぽり」
それはもうとんでもないことを美緒は言った。
おい、隠す気はないのかこの変態は……。
「へ、へぇ……すごい進んじゃってるのね」
あーこれ毎日お盛んっていう認識されてるんじゃないか?
「早見さん、あんまりコイツの言うこと真に受けなくていいんで」
「そ、そうよね……高校生が本番しまくってるわけないもんね」
うんうんそうよ、そうに違いないと自分に言い聞かせるように早見さんは頷いた。
「むぅ〜、でも確かに生本番までは至ってないから、実質シてないのと同義ね」
美緒がまたとんでもないこと口走ってるがもうこれ、相手にするだけ無駄なので放置だ。
「え、やっぱり……毎日しっぽり?」
失敬、さっきの考えは放棄だ。
このまま放っといたら、ますます変なことを口走りかねない。
俺は、無言で拳を美緒の頭に落とした。
「ぎゃふん!いったぁい〜」
美緒はよろっと俺の方へ倒れかかる。
そして再び耳打ちするのだった。
「ベッドの上でのお詫び、期待してるからね?」
まったく変態はどこまでいっても変態らしい。
「で、母の日と早見さんが俺に頼みたいことと何の関わりがあるんだ?」
脱線しまくって気付けばエロまっしぐらになっていた話を戻す。
「あ、そうそうそれなんだけど……私、お母さんにお菓子をプレゼントしたくてね。だからその……料理の得意そうな和泉くんにお菓子作りの先生をして欲しくって。ダメ、かな?」
ダメ、かな?ってそんな言い方されたら断れないだろうが。
無自覚で男心を掴みに来るあたり、意図してやってるだろう美緒より早見さんはタチが悪いかもしれん。
「セックスの得意そうな和泉くんに子作りの先生をして欲しくって。ダメ、かな?」
クスクス笑いながら美緒はとんでもないことを耳元で囁く。
早見さんの真似してんじゃねぇよ。
美緒はとりあえずスルーしとくか。
「いいですよ。いつから教えればいいですか?」
姉ほどではないにしろ、俺も料理はお菓子作りに至るまで幅広く網羅しているつもりだ。
「善は急げ、今日からお願いできると嬉しいなって」
「今日ですか?俺は予定もないんで構わないですよ」
美緒が俺のシャツの袖を掴んで何かを言いたげにしている。
「え、いいの!?」
早見さんは目を輝かせた。
「俺も最近、甘いもの食べたいなって思ってたんで丁度いいんすよ。とりあえず帰りにスーパー寄ってくんでそのつもりでお願いします」
かくして早見さんにお菓子作りを教えることになったのだった。
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