第15話 実は変態なのかも?

 「というわけで今日は俺の部屋だな」


 早見さんと美緒とを連れて、俺は久しぶりに自分の部屋へと帰った。

 というのも美緒と一緒にご飯を食べるのが習慣化したために俺の生活用品も全部美緒の部屋にあるのだ。


 「私、何気に怜斗くんの部屋にお邪魔するの初めてかも」

 「間取り同じ部屋だから何も変わらんぞ?」


 なにせ同じアパートの住人なんだから部屋の構造は全部同じだ。


 「むふふ〜、そんなこと言っちゃってぇ……実はベッドの下にエッチなものとかあるんじゃないの?」


 となりで美緒がニヤニヤしている。


 「美緒、早見さんもいるんだから、そういう話はやめような?」


 早見さん、気分とか悪くしてないか?そう思って後ろを振り向くと、


 「エッチなもの……えっち…男の子だもんね、てか私、男の子の部屋行くの初めて?えっち……」


 顔を赤らめて俯きがちに呪詛のように「えっち」を連発していた。

 うん、大丈夫じゃないな。


 「あ、そうだ。美緒、エプロン取って来てくれ」


 さっきも言ったように生活用品は基本、美緒の部屋なのだ。

 もちろんエプロンも普段調理する美緒の部屋に置きっぱなし。

 じゃあなぜ今日は俺の部屋かというと、菓作りのための調理道具は普段、美緒の部屋で使わないので俺の部屋にあるからだ。

 

 「取って来るってそんなに新妻さんの部屋は近いの?」


 美緒の背中を見送りながら早見さんが訊いてきた。


 「あぁ、隣だからな」

 「えっ……」

 

 早見さんは絶句した。

 まぁ、そりゃぁそうだよな……。

 普通に考えたら、まず有り得ないシチュエーションなのだ。


 「それで、同棲……?」


 美緒が惚気けたせいで早見さんは俺達の関係を知っている。

 多分、ほぼ毎晩体を重ねてるなんてことは知らないはずだが……。


 「早見さんも美緒が料理出来ないのは知ってるだろ?」

 「それは何となく察しがついてたけど……」

 「それもあって俺が一日三食の飯当番になったんだよ。完全に美緒のペースに乗せられた感は否めないけどな」

 「面倒とか嫌とか思わなかったの?」


 面倒か……。

 思ってみれば結構、飯作るのって面倒だよな。

 でも今、早見さんに言われるまで俺は気付かなかった。


 「多分だけど一人で飯作って食べるって寂しかったんだろうな。でも誰かと食べれば楽しいし飯も美味しくなる。だからそんな風には思わなかったんだろう」

 「なるほど……ちなみに二人は付き合ってるの?」

 「うーん……告白はされてないし多分付き合ってはいないんだろう」


 セフレ以上恋人未満?なんというかとても中途半端な関係だ。

 でもまぁ誰かに定義された関係に縛られる必要もないのかもしれない。


 「ふふっ、何その微妙な間は」


 早見さんは笑った。


 「いや、改めてどんな関係なのかって考えてただけだ」

 「きっとすぐに付き合ってないって言わなかったんだから和泉くんも新妻さんのことちょっと好きなんじゃないかな?」


 他人に言われてみて改めて気付かされる自分の気持ち。

 もしかしたら、いやもしかしなくても俺は美緒に惹かれているのかもしれない。

 体の関係は抜きにしたって、彼女の隣は居心地がいい。

 ただ美緒は、過去のことを隠している節があるから全てを信頼できるかと問われればそれはそれで違う気もする。


 「どうだろうな」


 ガチャっとドアを開ける音がした。


 「帰ってきたみたいだね」

 

 扉を開けて美緒が姿を現した。


 「ただいま。ほいっどうぞ!」


 美緒は取ってきたエプロンを投げた。


 「ありがとな」

 

 美緒は既にエプロンを着ていた。

 俺も洗面所で手洗いうがいを済ませる。


 「私も借りていいかな……?」

 「いいよ」


 遠慮がちに早見さんも手洗いうがいをする。

 ちょっと休憩したいって気持ちもあったけど、美緒は準備も終えてスタンバイしてる以上、待たせるわけにも行かないから仕方なく俺はキッチンに立った。

 そしてはたと気付いた。

 早見さんがエプロンを持ってないことに。

 キッチンとセットの納戸の扉を開けて探すとエプロンが一着仕舞われていた。


 「これを来てくれ」

 「いいの?」


 早見さんは俺を見つめた。

 異性の目を正面から見つめられるってすごいな……。

 俺には出来ないのに。


 「たまに来る姉のだけどな。それでも良ければ……」

 

 エプロンの真ん中には可愛いクマのアップリケ。

 

 「ありがとう」

 

 早見さんはエプロンを纏った。


 「いいなぁ〜」

 

 横で頬を膨らめて不満そうにしている美緒。


 「何がだよ」

 「ほら、私だけ自前のエプロンじゃん?」

 「そうだな」

 「だからー、私も怜斗くんのがいいなぁって!予備あったりしない?」

 「ないです」

 「しょぼん(´・ω・`)」


 ポンポンっと手を叩く音が聞こえた。


 「はいはい、私もいるんだから甘酸っぱい空気を漂わせないの!」


 振り向くと別の意味で不服そうにしている早見さんだった。


 「うひひ〜」


 隣にいたエロおやじみたいな笑い方をする美緒。

 なんかも嫌な予感しかしない。

 具体的に言えば爆弾発言。


 「だってセフレ以上恋人未満だから実質カップル(仮)だもん!」


 ほらやっぱり!

 予想を裏切らない程度にやらかしてくれる。

 

 「お前は何を言ってるんだよ」


 とりあえず問答無用の鉄拳を振り下ろした。


 「ぎゃふんッ!?」

 「妄言野郎は放っておいて早見さん、早速取りかかりましょう」


 いつも美緒は一言余計なのだ。

 いや一言どころじゃないな、一文か?


 「……やっぱりいつもしっぽりハメハメしてたのね……ケダモノ……えっち、変態、破廉恥カップル……」


 湯気が上ってる幻覚すら見えそうなまでに顔を赤らめる早見さん。

 頬に手を当てクネクネと腰を動かしている始末――――この人も変態か……。

 結局、調理に取り掛かるまで結構な時間を費やした。

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