第50話 辱め
久しぶりに学校の授業に出席した。
と言っても期末テストだけど。
そして久々に登校した私を迎えたクラスメイト達は腫れ物に触れるような態度で私に接してきた。
例外なのは怜斗くんや陽菜ちゃん、生駒さんだけだった。
「はぁ……疲れちゃったな……」
居づらい空間にいるのが、学校にいるのが、人と付き合っていくことが、自分を装うのが。
「ねぇ、君が噂の美緒ちゃん?」
昇降口でスマホを片手に怜斗くんを待っていた私に声をかけて来たのは他クラスの男子生徒。
「いじめ受けてるんだっけ?僕でよければ相談に乗ってあげるよ」
優男然としたもう一人の男子が白々しくもそう言った。
傍から見れば女子ウケするだろう顔立ちなのだろう二人はしかし、その内面にはありありと下心が見えていた。
「必要ない」
言葉を交わしたいとは思わなかったけど、このままでは二人はいつまでもここにいそうだった。
「つれないなぁ……」
片割れがそう言うともう一人の方が
「せっかく心配してあげてるのにね!」
周りに聞こえるようにわざと大きな声で言ってみせた。
二人で打つ三文芝居。
良くも悪くも目立つ二人が揃って私と会話する光景は既に周囲の耳目を集めていた。
たまらなく私は顔を背けた。
スマホを持っている手はいつの間にか震えて細かい文字を追うことは叶わない。
早く来て……怜斗くん。
私は無意識に助けを求めるように怜斗くんとのトーク画面を開いていた。
ワンタップで通話を開始して助けを求めることも出来る。
通話ボタンを押しかけて私の指は止まった。
もしかしたら……この通話が原因で怜斗くんにも迷惑がかかってしまって、私から遠ざかってしまう最悪の未来が視えてしまったのだ。
ダメ……助けを求められない……。
項垂れた私の顎に手を伸ばして、上に向けさせたのは優男然とした男子生徒。
物語の中なら、打ちひしがれた少女に優しく手を伸ばす男子生徒との間に生まれる恋もあるのかもしれない。
でもこの現実にそんな可能性はありはしない。
見え透いた下心、打算、肉欲。
向けられる視線はそれらが
ときめくことはおろか、嫌悪感、不快感が私を覆った。
その手を払い除けてしまいたい。
でも払い除けてしまえば、私の噂を無かったことにしようとしてくれている数少ない友達の努力を無にしてしまう気がして、私に払い除ける手は無かった。
「なぁ、頼めばヤらせてくれるビッチじゃなかったのかよ!?」
「君を助けてあげられるのは俺たちだけってわけ。わかんないかな?」
何も言い返さない私に対して、ここぞとばかりに心無い言葉を浴びせてくる二人。
だが次の瞬間、彼らは私の視界の外へと消えていた。
「そのクソみたいな言葉、取り消せよッ!!」
昇降口前のフロアに響く待っていた人の声は怒りに満ちていた。
もの凄い剣幕で怒る彼は、二人へ近付くと、襟元を掴んで二人を突き飛ばしたのだった―――――。
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