第55話 姉、来訪

 週末、久しぶりに見る顔が俺の家へと来ていた。


 「よーっす!元気してるかぁ?って……してるわきゃないか」


 場違いな程に陽気な声を上げたのは、俺の姉にあたる梓沙あずさだった。


 「……珈琲?紅茶?」

 

 会う気があったかと聞かれればノー。

 でもわざわざ実家から来てくれたのはきっと事情を知ってのことなのだろう。


 「こんな時ぐらい、人に に気を配ることなんざやめて自分の気持ちと向き合えよ」


 飲み物を尋ると姉が寄り添うようにして言葉をかけてくれた。


 「俺は……彼女の気持ちを踏みにじるような真似をしたんだよ。許されるわけないだろっ!!」


 占部と逆巻はある種、俺にとっては写鏡だった。


 「それは怜斗の側の考えだろ?美緒ちゃんは違うかもしれないぜ?」


 姉はトーク画面を見せてきた。


 「これは……?」

 「美緒ちゃんとのトーク画面だ」


 交わされるメッセージは俺との間を取り持って欲しいという内容だった。

 そしてこれまで俺たちに何があったのかが掻い摘んで書かれていた。


 「……なんで、姉貴の連絡先を知ってるんだ?」

 

 二人にそんな繋がりは多分無かったはずだ。


 「昨日、こっちに来たんだよ。わざわざ私の連絡先を聞きにな?そして最近の怜斗の様子を伝えにな」


 そう言うと姉は「いい子だなー」と目を細めて言った。


 「今のままだと、怜斗は美緒ちゃんの気持ちをまだ踏み躙ったままだぜ?勝手に落ち込んで勝手に孤独になってって、ちょい自分本位過ぎなんじゃね?」


 姉の言葉に俺はハッとさせられた。

 確かにそれはそうだ……余りに正論すぎて返す言葉も見当たらない。


 「図星だろ?ならよ、たったと仲直りしちまえ」


 ぶっきらぼうな口調とは裏腹に何処までも暖かい優しさがそこにはあった。


 「ありがとう……姉貴」

 「おう、んじゃ、甥か姪が出来るの楽しみにしてっから」

 「その一言が無かったら完璧だった」


 きっと俺の気持ちを楽にするために冗談を飛ばしてるのだろう。

 それがわかると尚更、気恥ずかしくなった。


 「てか、そんなことになったら姉貴は叔母さんになるぞ?」


 姉が元気づけてくれたおかげ、気持ちは楽になり冗談を返せるくらいにまで持ち直した。


 「ウゲっ、二十なのにもう叔母かよ……。複雑な気分だぜ」


 一頻り笑いあったあと姉は


 「んじゃ、弟を元気にしたことだし帰るわー」


 と部屋を出ていった。

 あとは上手くやれよ……そう言うメッセージなのだろう。

 俺は、久しぶりに美緒とのトーク画面を開いた。

 上手くやり直せるといいな……。

 もしできるのならの美緒と俺みたいに。

 そんなことを思いながら、俺は迷いなく三文字を打った。

 続けて、仲直りしたい、とも。

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