第23話 再開の日2
瑞葉は『話したいこともあるし』と言っていたにも関わらず、終始無言のまま電車は横浜駅のホームに滑り込んだ。
そこからは、みなとみらい線に乗り換えてみなとみらいの駅へ向かう。
「あの頃のこと、私はまだ鮮明に覚えてるよ」
過ぎ去った過去が愛おしいものだった、とでも言うかのようにどこか焦点の合わない視線を俺に向けた。
「結局、無為になったことに後悔はしてないのか?」
下火のまま、ずるずると続いてしまった二人の関係。
適当なところで見切りをつけて終われたのならどれほど互いにとって良かったことかと俺は思っている。
「無駄だったなんて私は思わないよ。怜斗はどうなの?」
「一人称変わったんだな」
瑞葉の問いには答えず俺は、ふと思ったことを言った。
「高校受験の面接から、変わっちゃった。昔のままが良かった?」
「いや、そのままでいい」
脳内で勝手に再生されるあの日の光景。
――――あたしさ、
ちょっぴりやんちゃだった頃の面影は今の瑞葉には無い。
「それはいいからさっきの質問に答えてよ」
入場料を払ってついでにソフトドリンクのアイスコーヒーを受け取って席に座ると瑞葉は言った。
「俺にとってどうだったか……」
考え込む俺を不安そうな顔で瑞葉は見つめる。
どうしてそんな顔をするんだよ……。
「俺は瑞葉に告白されて付き合って恋愛を知った」
それは決して無駄じゃない。
「でもちょっとした後ろめたさもあって、全力で楽しめたかは分からない。でも楽しいことも多かった」
三人一緒の幼馴染で一人が仲間外れ。
転校する前の美緒とは多分、ほとんど話したことなどないと思う。
向こうは俺達に遠慮して、俺は仲間外れになってしまった美緒に申し訳なくて。
でも美緒に何かをしようとすれば、瑞葉が俺の時間を全て持っていってしまう。
「それと同時に苦悩も知った。思いっきり悩んだ」
瑞葉は俺の言葉を黙って聞いている。
「でもそれは多分、俺にとっては必要なことで……だから有意義だった」
瑞葉を傷付けないようにと配慮したわけじゃなくこれが俺の嘘偽らざる本音。
「良かったぁ……。今日も川崎駅で待ってたときから本当に来てくれるかなって心配で……でも今の質問にはそれ以上の悠久が必要だったの」
今まで滲ませていた緊張感のようなものが消えて、表情は穏やかになっていた。
「今日は謝ろうと思って来た」
多分、瑞葉にとっては不満の残る別れ方を俺はしてしまったのだから。
後になって、いっそ俺が悪者になるような芝居でもしてから別れを切り出せばよかったとすら思った。
「怜斗が謝ることはないよ。全部私のわがままだったんだから。一方的に愛を押し付けちゃって、滑稽だったね」
片想いのまま付き合うのは、俺にとってだけじゃなくて瑞葉にとっても辛いものだった。
元はと言えば、最初に中途半端な気持ちのまま瑞葉の告白を受けてしまった俺が悪いのだから、時をかける少女のように時間を戻せれば、と何度も思った。
「それを招いたのは俺だ。瑞葉は何も悪くない」
時を駆けることは出来なくても、瑞葉は俺に自分の時を賭けて愛してくれた。
「だから、今更だけど俺が償えることがあったら言ってくれ」
面と向かって言うのは何処か気まずくて、俺は考え込むフリをして俯きがちに言った。
だから俺はこのときの瑞葉の表情の変化に気付けず、そしてその言葉を口から出してしまったことがどれほど致命的かも分からなかったのだ。
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