海まつりを無双せよ15
髪の毛をバスタオルで揉みながらベッドにパタンと倒れ込む。仰向けになって大の字に手足を広げると冷房が全体に当たって、シャワー後の火照った体が急速に冷えて気持ちいい。
天井のライトが眩しくて首を横に倒す。日めくりカレンダーは七月最後。
光陰矢の如しとはよく言ったものか。
まぶたをとじて暗い世界に沈む。微睡みの中、脳裏に夏の忙しく楽しい日々が思い浮かんだ。
***
「刈谷くん! 案内看板の出来はどうかな!?」
「うん、書体も大きさも良い感じだと思うけど、この変な生き物は何?」
「へ、変なじゃないよ!」
「キリン?」
「違うよ!!」
「えっとじゃあ、鯨?」
「そ、鯨なわけないよ!」
「じゃあ何?」
「木!!」
「生き物ですらなかった……」
「だ、ダメかな?」
「外暗いし、それで良いと思う」
「帰りたがってる!?」
「嘘嘘、エナドリ買ってくるよ」
「私の絵を直すのは深夜作業なの!?」
なんて遅くまで氷室さんと看板作りをしたっけか。
***
「へい! 刈谷くん!」
「どうしたの、七瀬さん?」
「今からちょいとドライブに行こうよ!」
「無免許?」
「冗談、冗談。買い出し行こーよ」
「備品の?」
「うん。それとアイス」
「あーいいね」
「ぱぴぽ吸いながら帰ろうよ」
なんて七瀬さんとアイスを食べながら夏の海沿いを歩いたっけ。
***
「冷房涼しいです。生き返ります」
「言ってる割には溶けてるけど? 机に突っ伏しちゃって動いてないよ」
「冷房はリジェネなんだよぉ。即回復じゃないんだよ」
「うい〜、お待たせジュースとってきたよ〜」
「ありが……いや、俺のジュースの色おかしくない? 黄土色なんだけど?」
「あはは。細かいことは気にしない! ドリンクバーのジュースは混ぜるのが礼儀ってもんだよ!」
「氷室さん、美味しそうなジュースがあるよ」
「あ、こいつ人にパスした」
「ありがとう、刈谷くん。ごく……なにこれ、なんか金属っぽい味がする」
「七瀬さん、何入れたの……」
なんて三人でファミレスに通ったっけ。
***
他にも次々と夏の思い出が蘇ってくる。
この一週間、俺でも体力的に厳しいくらい海まつりの仕事は過酷だった。
だけどそれでも三人でこなした充実感が勝る。
氷室さんと七瀬さんと仲良くなり、チラシ配り、テント設営、同じく楽しかった出来事の数々は慌ただしくて、疲れ果てて寝てしまうくらい無邪気に楽しんだ。
一生分遊んだといっても過言ではないような気がする。
シャボン玉や水しぶきみたいにキラキラとした日々は明日で終わる。
そう、明日で終わるのだ。
氷室さん、七瀬さんとの時間は楽しくて仕方なかった。
それでも俺の気持ちは変わることはなかった。
微睡の中、やがて意識は落ちていき、目を覚ましたのは翌日の早朝だった。
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