放課後を無双せよ、ただし七瀬陽南乃に正体がバレてはならない3


 喫茶店を出た俺たちが向かったのはカラオケ……ではなく、占いの館だった。


「絶対、カラオケがいーい」


「いんや、ボーリングだ」


 強気にそう言ったが、内心、冷や冷やである。


 歌声で確かめにきてるのは間違いない。オフ会の時は、ベースの声で歌ったため、いくら高くしようと低くしようとも、変えて歌っても気づかれるときは気づかれる。


 だから俺は代案にボーリングを提案した。


 が、七瀬さんが呑めないのは当然。


 そこで俺は、別の提案をした。


「どっちがいいか、占ってもらうんだから、言い合わなくても良いのに。それに、占いって初めて! 皆で占ってもらうなんてキラキラだぁ!」


 これが俺の回答。氷室さんにキラキラを送り、七瀬さんの追及からは逃げられる。仮に占いでカラオケと出ても、信用ならない、で済ませられる名案。


 ただ、これが本当に正解なのかは、疑念を持っている。


 というのも、妙に七瀬さんが素直だったからだ。


 何か都合が良かったのだろうか。


 そんなことを考えているうちに、小さな占い屋についた。


 店名は『港区の母』


「新宿じゃないんだ。マダムみたいな人がいそう」


 そんな話をしながら、入ってみる。


「いらっしゃい」


 そう声をかけてきたのが、机の奥にいる同級生くらいの小さな女の子。占い師っぽいヴェールにマスクみたいなやつを着けているその子は、小柄な体躯もあって、子供がシーツかぶって、お化け! ってやってるような可愛い印象を受ける。


 そんな占い師を見て、氷室さんは、あー、と気まずそうな顔を浮かべた。


「占いで出た。おい、そこのお前、今当たらなそう、とか金の無駄だ、とか思ったろう」


 占い師は氷室さんにそう言った。


 こんな子供が占い師なら誰でもそう思うだろう。何が、占いで出た、だ。何占いだよ。


「すごい……本物だ」


 氷室さんは信じ切ってしまった。可愛い、けど心配になる。


「ふふっ、お嬢さん、占ってほしいことは何だい? 一律五百円だよ」


 占い師は立ち上がり、ささっ、と机の前まできて、椅子を引いてくれた。威厳があるのかどうなのかわからない。


 それに、微妙な値段設定。相場で言えばどうなんだろう。安いのか? 果たして安いのか?


「失礼します」


「ちょっと待って、氷室さん!」


 と座りかけた氷室さんを七瀬さんが止めた。


 インチキに対抗したのかと思えばそうではなかった。


「はいはい! まず刈谷くんを占ってほしいんだけど!」


「そっちの坊主か。ええわい、お座りください」


 だから威厳があるのかないのか……ということはどうでもいい。


 手を挙げた七瀬さんを疑う。


 何が目的? 


 俺を占わせて何の得が……そうか。


 手相、これが目的か。


 オフ会の日、たしかに七瀬さんの手をずっと握っていた。そこから情報を得ようというのだな。


 手の大きさは変えられない。ならば、手相の占いは拒むしかない。


「お主、何占いがお好みでしょうか?」


「てそ……」


「タロットで」


 声を上書きすると、七瀬さんは、むぅ、と唸った。


 危ない、一瞬でも手相が狙いだと気づくのが遅れていたら、そこでバレ、人生が終わっていたかもしれない。


 いや、手相で人生終わるって何だよ。手のひら全部死相か。生命線なしか。


「ふむ、よかろう。では、何を占うのじゃ、でしょうか?」


「このあと、ボーリングかカラオケ、どっちがいいか」


「占い師を舐めるな!!!!」


 そりゃまあそうなる。これも見越して占いに決めていた。


「棒でも倒して倒れた方にいけ!」


 占い師とは思えない発言だなぁ。


 七瀬さんは笑いをこらえて俯いて、氷室さんはあわあわしている。


 これ以上は流石に失礼で、気持ち良くないのでぺこりと頭を下げた。


「すみません、冗談です。別のことを占ってください」


「くっ、こやつめ、ならば何がいい?」


 机の下から取り出したカードをシャッフルしながら、占い師は聞いてきた。


「あ、じゃあ、私と刈谷くんの相性を占ってほしいです!」


 氷室さんがそう言った。


「ふむ。よし、恋愛でよいか?」


「ち、ちちち、違います。友人としての相性です」


「わかった、両方占ってやる。おい小僧カードを二枚引け」


 もはや客に対する態度じゃない。だけど占い師ならこんなもんかもしれない。


 そう思いながら、カードを引く。


 表向けると、カナヘビをおっかける男と、小型冷蔵庫のカード。


 見たことないカードが出ちゃった……。


「ふむ。カナヘビをおっかける男と、小型冷蔵庫のカードか。お主らの相性は100%じゃ」


「絶対嘘だろ! それに、この二つなら、絶対低いだろ! 見るからに相性ゼロだろ!」


「嘘じゃない! それに、客商売なんだ! 低い値だすわけないだろ!」


 流石に我慢できず突っ込むと同じ勢いで返ってきた。


「え、ええと……それはどっちなんですか?」


 氷室さんが場をとりなそうと、そう言った。


「両方じゃ。友人としては生涯の友人、恋人としても生涯の恋人となるじゃろう」


「りょ、両方、あわわ……」


 氷室さんが照れて使い物にならなくなっちゃった。


「く、ぷくく、わ、私と刈谷くんの相性も占ってもらっても良いですか?」


「よかろう、お主、カードを引け」


 笑いを噛み殺しながら七瀬さんはカードを引く。


 出たのは、サキュバスと底無し沼のカード……。


「あ、七瀬さんらしくないカードだね」


「氷室さんもそう思う?」


 元に戻った氷室さんと七瀬さんの会話を聞いた占い師が、七瀬さんにじとっとした目を向けている。


 この占い師、似非じゃないかも……。


「で、占い師さん、私と刈谷くんの相性は?」


「100%じゃ。友人なら相手は死ぬ。恋人でも相手は死ぬ」


「あはは! どっちでも死んじゃうんだ! 100なのに!」


 笑えない、ぜんっぜん笑えない。


 ちゃんと、何を示唆するかの説明があったが、恐怖に内容は入ってこない。


 それから氷室さんと七瀬さんの相性も占ってもらって100が出て、氷室さんと七瀬さんが、キャッキャ、キラキラしながら説明を聞いたのち立ち上がる。


「ありがとうございました!」


「ふむ、最後にじゃ。そこの明るい美少女」


 七瀬さんが、私? といった顔をすると占い師は頷いた。


「ボーリングがよかろう。急がば回れじゃ」


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