放課後を無双せよ、ただし七瀬陽南乃に正体バレしてはならない6


 ちょうど1ゲームを投げ終える。


 スコアは七瀬さんから、160、125、83。皆それなりにいいスコアが出ていて、いい感じ。


 普通に放課後ボーリングして楽しむ。


 それだけでキラキラの青春だと思うけど、足りない。それに、このままだと、氷室さんの記憶に、皆凄かったという劣等感が残ってしまう可能性がある。


「よーし! じゃあ2ゲーム目行こう!」


「ちょっと待った」


「ん? どうかした、刈谷くん?」


 俺はルーズリーフを9等分したものを作って3枚ずつ渡す。


「趣向を変えてやろうよ」


「趣向?」


「その紙に投げ方を書いて、シャッフル。そのあと、ルーレットアプリで出た枚目に書いてある投げ方でやろうよ」


 そう言うと、七瀬さんは、おっ、と悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「いいねえ。左手で投げるとか、カーブとか、愛の言葉を囁きながら投げる、とかそんなんでしょ?」


「そうそう。王様ボーリング、って言うのかな? ちゃんと自分の得意なやつ、苦手なやつ、そんで、やりたい、もしくはやらせたいやつの3つを各自書こうよ」


「面白い! 氷室さんは?」


 しばらく静かに聞いてた氷室さんだけれど、目を輝かせて口を開いた。


「やりたいっ! 楽しそう!」


「いいねえ。だったら、罰ゲームも決めようよ〜、そだね。負けたら、メイドさんの物真似で」


「ええ!?」


「ないと、熱くなれないじゃん! ちゃんと、苦手なやつも書くからさ〜」


「うっ、わかった。実際そっちの方が面白そうかもだし。刈谷くんもいい?」


「もちろん」


「よし! じゃあ、早速書いちゃおう!」


 3人こそこそと書き終える。裏向きに回収してシャッフルし、ルーレット画面のスマホと一緒に机の上に置いた。


「さあ、七瀬さん。どうぞ」


「……ねえ、刈谷くん」


 七瀬さんは上目遣いで、ねだるような甘い声で囁いた。


「ファンデーションで画面ぽんぽんしちゃダメ?」


「何で指紋とろうとしているのかわからないけど、ダメ」


 美少女力に思わず頷いてしまいそうだったが、何とか耐えた。


 にしても、指紋って。そのレベルでバレてしまうとは思わないけど、検討材料くらいにはなるだろう。あとスマホにファンデーションは、ちゃんとやだ。


「あはは。じょうだんだよ〜、じゃあ押すね」


 えい、と画面をタップしてくるくるとルーレットが回り出す。


「出た! 3枚目!」


 3番は、と紙を探して見つける。


「今、気になってる人の名前を呼びながら、かぁ」


「そっ、ベタでベターな感じでしょ〜」


「ええ!? いるの!? 七瀬さん!?」


「いちゃったりして?」


「そ、そんなの学校の男子が泣いちゃうよ」


「まあ私、モテますからね〜」


「おっ、自慢するために書いたのかい?」


「バレたかぁ」


 なんてヘラヘラしている七瀬さん。


 もちろん冗談。本当の狙いは氷室さんの裏にいる人。これだけ自分を変えてくれた人なら、好きとかそんなもの以前に気になっていて然るべき。だから変えてくれた裏にいる人間の名前を挙げるはず。


 そんな意図が透けて見える。


 もし、初っ端氷室さんに3番が当たって、俺の名前でも呼ばれたら、裏にいる人間=刈谷優。もし七瀬さんが裏にいる人間をくるみだと気づいていた場合、くるみ=刈谷優、と判断されるだろう。


「よーし、じゃあ投げるよ〜」


 レーンに向かう七瀬さんの隙を見て、俺はルーレットアプリの設定をいじる。


 この俺が無策でこんなゲームを始めるわけがない。


 今、使っているルーレットアプリ。八百長に対応しているのだ。設定の変更さえすれば、その数字が出る確率を下げることが可能。


 七瀬さんから貰った紙を常に、一番上と下から二枚に置き続けるとして、1、89の数字の確率を下げればいい。


「くるみ♡」


 七瀬さんは投げて、きゃっ、と頬に手を当てる。そして、細いのにもっちりとした、美白の太ももをこすり合わせる。


 氷室さんは「女の子? え、でも、本当に好きなのかな? 七瀬さん可愛すぎて胸が痛いし」なんて呟いてる。


 俺はというと、ガーターに転がったボウルを見て、色々と周りが見えていないヤバさに、やはりこいつはsunだと震えがきていた。


「第二投も、くるみ〜♡」


 ふやふやのボールがガーターに吸い込まれるのを見届けるまでもなく、俺はルーレットを回す。


「俺も上から三枚目かぁ」


「ちょっと、二連ガーターなんだし、もうちょい反応してくれてもいいじゃん!」


「惚気に繋がりそうだから、やです」


 それに、突っ込むとロクなことにならない、と警鐘がなっている。あの長文メールが口から語られれば、氷室さんのキラキラ青春はホラーに変わってしまう。


「ええ〜。聞いてくれないの〜? モテないよ〜」


「えーと、両手で転がす。可愛いなぁ、氷室さんでしょ」


「え、あ、うん。でも、七瀬さんはいいの?」


 無視ひどーい、なんてケラケラ笑う七瀬さんを尻目にボールを転がす。結果は3ピン。もう一投しようとしたその時だった。


「じゃあ次は氷室さん!」


 七瀬さんはそう言って、紙をシャッフルし始めた。


 俺は慌てて、声をかける。


「あ、ちょ、待って。俺がシャッフルするよ」


「はいどうぞ、氷室さん引いて!」


「無視しないで」


「ささ、どうぞ。氷室ちゃん」


「え、いいの?」


「いいの、いいの。仕返し仕返し」


 まずい。何としてもその役割は譲らないつもりだったが、七瀬さんへの恐怖と、キラキラを守らねば、という使命感で疎かになってしまった。


 俺ともあろうものが何て失態だ。ここで無理にわけいっては、不正を疑われて二度とその役割はまわってこないため、何もすることができない。


 だけど、悲観するにはまだ早い。出目は1/9。もしくは七瀬さんが書いた紙の1/3。引かない可能性の方が高い。


 大丈夫だ、ここを乗り切ればいいだけ。


 早々に投げ終えたが、それでも氷室さんの声の方が早かった。


「えっと四枚目だから、あ、今、気になってる人の名前を呼びなが、ら!?」


 顔を赤くする氷室さんとは反対に、顔が青くなってしまった気がした。


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