趣味探しを無双せよ11
氷室さんと何話してたのか、迂遠に詰められ終えると、俺たちは店を出て、商店街を歩いていた。
「あ、ポスター見て! 海祭り! もうそんな時期かぁ!」
「へえ。もうすぐにあるんだ。陽南乃ちゃん、すっごく好きそう」
「うーん、それはどうかなぁ。ほら、祭りってさ、知り合いと会うと、おっなになにじゃん、祭りきてるんだぁ、何か遊んだぁ? みたいな会話ばっかで、全然進めないし、あんまり楽しめないんだよねえ」
「り、リア充すぎる悩み。陽南乃ちゃんに声かける人、一杯いるんだろうなぁ……」
「そだよぉ〜、誇張抜きで山ほど」
「山ほど!?」
「うん、もう本当。だから、今年は彼氏と行って、声かけるのも野暮だなぁ〜ってくらいイチャイチャして歩きたい」
そう言って、後ろで歩く俺に視線をよこしてきたので、さっ、とスマホをしまい、できるといいねー、と返した。
「やっぱり? く……沢谷くんもそう思う? 相思相愛だね!」
嫌な捉え方されたので、氷室さんに話を振る。
「氷室さんは、お祭り行くの?」
「えっと、私は行かない、かな」
「へえ〜。うちの地域は皆行くのに、なんか用事とか?」
「いや、そのぅ、昨年初めて圭介とお祭りに行ったんだよ」
「それで?」
「その、さ、型抜きしようって、圭介に誘われて一緒にやったんだけど……圭介、すぐに割っちゃって、『こんなんやるやつバカだ。悪どい商売しやがって、くそ』って言ったんだよ」
「あ、なんか続き読めた」
「でも、私、成功しちゃってさ、圭介を不機嫌にさせちゃって……」
「予想通りだった」
「それですぐに帰っちゃった……ってことがあって、祭りに行くのがちょっと怖いんだ」
ずん、と沈む氷室さんに、慌てて七瀬さんが声をかけた。
「だ、大丈夫だって雪菜! 今年は私が……いや、私は彼氏と行くから行けないけど、刈谷くんがきっと楽しい思いさせてくれるって!」
氷室さんに楽しい思いはさせてあげたいけど、勝手に決めないで欲しい。あと俺と行くことを決定事項に考えないで欲しい。
「そ、そう?」
「そうだよ! なんなら……ってあれ?」
急に勢いがなくなり、首を傾げた七瀬さんに、こっちも首を傾げる。
「どうかしたの陽南乃ちゃん?」
「え、ああいや、嫌だなって思って」
「えっと何が?」
「いや、ね。海祭りで想いを口にすれば結ばれるってべたなジンクスがあるから、わんちゃん刈谷くんっていう彼氏が、氷室ちゃんにも出来るって言おうとしたんだけど、嫌だなぁって思って」
「か、かかか刈谷くんが彼氏ぃ!? そ、そんなんじゃないよ!!」
「あぁ、うん。全然冗談のつもりだったんだけど、それでも嫌で。あそっか、私、案外、この三人の友達関係気に入ってるんだ。だから、崩れそうで嫌なんだ」
何か本能的に俺が刈谷だと気づいてそうで怖い。ただでも、言葉通り受け止めておこう。
と、すると、案外、かぁ。
やはり俺たちの仲は、そこまで深くないというのが証明されてしまったな。
ま、このあと、少し進展するだろう。それが見れないのはほんの少し残念だが。
「って、まあどうでもいっか。ま、きっと、今度は楽しめるから安心して祭りに行ったらいいよ、雪菜」
「そ、そうだよね」
「よし! この話おわりっ! じゃ、沢谷くん、次はどこ行くの?」
七瀬さんに話を振られたので、俺も切り替えて答える。
「カラオケだよ。まあ、趣味の定番って言ったらこれだからね」
「カラオケ……密室、エロ漫画でよく見る展開」
ねめついた視線を無視して、氷室さんにアイコンタクトを送る。
「あ! えっと、陽南乃ちゃん!」
「ん?」
「陽南乃ちゃんって、どんな曲が好きなの?」
この質問は、さっき俺が尋ねるように指示していたものだ。そしてその答えを、一緒にカラオケに行った俺は知っている。
「洋楽かなあ。好きなんだよね〜」
「へえ。本当にそうなんだぁ」
「あれ? 私、誰かにこの話したっけ? 共感得ること少ないし、喋った覚えはないんだけど」
という七瀬さんの言葉は、被さる形で遮られた。
「わっ、マジ!? 七瀬と氷室さんもいるじゃん!」
声の方に目を向けると、10人くらいのクラスメイトがカラオケ店の前に集まっていた。
「え、どうして、集まってんの? もしかして私ハブにして、何かやってたり?」
七瀬さんがそう言うと、リア充グループのギャルが近づいてきた。
「七瀬がハブられんなら、そん時は誰もいないよ。というより、見てないの?」
「何を?」
「これ」
ギャルがスマホの画面を紋所のように見せてくる。
「午後二時からフリータイム、うちの高校二年限定の割引?」
「そうそ。何でも、夏休みを前に常連を作るためらしいよ」
「へえ〜、それで集まったんだ」
「集まったていうか、鉢合わせた、だけどね」
で、さ、とギャルは続ける。
「こんなに集まったなら、大部屋借りようよって話になってるんだけど、七瀬たちもくる?」
その提案に、俺は即答する。
「行きなよ、俺、これからバイトがあるし、ちょうど良かった」
「え、ちょっと待って」
七瀬さんが俺の手を引いて、ほんの少し後ろで潜めた声をかけてくる。
「バイトがあるって嘘だよね。くるみ、どういうつもりかな? もしかして、逃げようとしてる?」
「ち、違うって」
ちがくはないが、続きを話す。
「普通に俺がいると気まずくなるよね?」
そう言うと、ややあって七瀬さんは口を開いた。
「じゃあ混ざらないで別の部屋で静かにシよ?」
何のしよかはわからないけど、首を振る。
「ダメ。多分、きっと俺じゃなくて刈谷なら、みんなに混ざる。俺は代理で来てるんだから、刈谷と違う行動はとれない」
そう言うと、七瀬さんは口を尖らせた。
「わかる、けど。まあ雪菜一人送るのも抵抗があるし。でも……」
「そのさ、また二人で行こ? 今度、俺から誘うからさ」
「本当? 絶対だよ?」
「うん」
「日程、一週間は空けてくれる?」
「延長料金で破産させる気?」
「嘘じゃないけど、わかった。じゃあ今日の夜、連絡待ってるね♡ ラストチャンスだからね♡」
ラストチャンス、という言葉が末恐ろしいが、七瀬さんと話がついて内心胸を撫で下ろす。
「じゃ、俺はこれで」
「うん! こんばん連絡してね!」
「もちろん」
と嘘をついて、俺は踵を返した。
ふぅ。何とか、逃れることができた。
俺はスマホを操作して、このカラオケへの集客に携わってくれた人たちに感謝のメッセージを送っていく。
カラオケ屋の店長にこの割引を頼み、目を盗んでスマホを操作して各方面に情報発信を頼んだ労はあったが、上手く行って良かった。
あとは、氷室さんが上手くやるだけ。
趣味については、スケボー、美味しいものめぐり、カラオケ、どれかを選んでもらって、このあと七瀬さんと仲を深められればそれでいい。
俺は満足感に満ち満ちて帰宅した。
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