3章
氷室さんは提案する
クラス会は食べ放題のお店。
4テーブル並んだ団体席で、配置はくじ引き。
普段関わらない子の新たな一面を知ったり、リア充らしいノリに身を任せたり、どのテーブルも、わいわい、ガヤガヤ、と盛り上がっていた。
高校生らしいキラキラの青春に、氷室さんも満足しただろう。と、他テーブルの氷室さんを見ると、ニコニコしていた。ずっとニコニコしているだけだった。
「じゃあ、みんなまたね〜」
クラス会が終わると店の前で解散。皆が方々へ散っていく中、俺は氷室さんに近づく。
「終わったよ」
そう言うと、氷室さんの顔の貼り付けた笑顔が崩れ、眉がへの字に変わっていく。
「近くに公園あるからさ、そこまで我慢しよ」
こくりと頷いた氷室さんと公園へ。辿り着き、二人きりになると、氷室さんは口を開いた。
「どうじよう、刈谷くん。全然喋れなかった……」
喋ればよかったのに、とは思うけれど、ああいう場は氷室さんにとって初めて。色々と空気を読む必要があるので、氷室さんには難しかったかもしれない。
そう気づいてなお、手助けしなかったのは、今後氷室さんが独り立ちする上で、課題を知っておいてほしかったからだった。
「まあこういうのは慣れだよ。何回か参加するしかないね」
「そうなんだ。慣れるしかない……か。でもさ、私、思いついたことがあるんだ」
「何?」
「私さ、趣味を聞かれたんだけど、そんなのなくて、話せなかったんだ。だから趣味があれば、もっと話を膨らませられたんじゃないかって」
その案は悪くないかもしれない。俺がリア充グループと仲良くなるきっかけも趣味だったし、氷室さんが俺たち以外に親しい友達をつくるきっかけにもなるかもしれない。それに、友達と同じ趣味について語り合う、というのは、キラキラの青春ってやつかもしれない。
「いいんじゃない。趣味を作ろうってことだよね?」
「うん。それで、刈谷くんに手伝ってもらいたいんだけど、ダメかな?」
暗い中でもわかるくらいの、赤い顔。それに、可愛くて仕方ない上目遣い。依頼のことがなくても、頷きそうになる。
「いいよ。ご依頼、承りました。それじゃ、趣味を体験できるよう手筈を整えてくから、今週末は空いてる?」
「ありがとう、刈谷くん! 勿論空いてるよ! それにさ、陽南乃ちゃんも誘っていいかな? その……友達と一緒に趣味探し、って凄く青春って感じがするし」
それは困る。多様な趣味に通じるところから、俺がくるみだとバレる可能性があるからだ。
でも、週末ということならば、こっちにも策がある。
「勿論。その代わり、氷室さんには飲んで欲しい条件がある」
「条件?」
可愛らしく首を傾げた氷室さんに、俺は言う。
「うん。今度の週末、俺は刈谷優ではなく、別人として氷室さん達と接する。それが条件」
「どういうこと?」
「俺は変装して別人になる。設定は、俺が急病で行けなくなり、代わりの知り合いをよこした、って感じで」
「え、ええ〜、どうして?」
もちろん身バレ防止のため。校内に目を向けている七瀬さんのことだ、校外の人間を怪しむことはないだろう。
とは言えないので、適当に誤魔化す。
「刈谷の人間が目立つ真似はできないからさ」
「あぁ、そういうことか。わかった、私も刈谷くんだって陽南乃ちゃんにバレないように手伝うよ」
「ありがとう。って、七瀬さんのことを、陽南乃ちゃんって呼ぶようになったんだ」
「うん!」
氷室さんは、心底嬉しそうな綻んだ笑顔になった。
そんな顔を見て、涙腺が刺激される。
うぅ、あんなに辛そうにしていた子が、友達と距離が縮まって嬉しそうにして……。
よし。もっと喜ばせるためにも、週末はキラキラな青春になるようにしっかり計画を組もう。
「それじゃあ、氷室さん。週末を楽しみにしてて」
「本当に、本当に、ありがとうね、刈谷くん」
こうして俺たちは週末に趣味探しをすることに決まった。
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