趣味探しを無双せよ1


 偉い人は言った。


 真のリア充に休日はない。


 というのは嘘である。が、俗世間でリア充と呼ばれるものは総じて休日も遊びだ何だと忙しい傾向にある。


 まあ何が言いたいかと言うと、休日まで充実してこそリア充で、キラキラの青春に一歩近づけるのである。


 空を見上げると、快晴、雲ひとつない青空、なんだけど、ここは高架下。上を車が走り抜ける音と、ガラガラとカンカンと、スケートボードの音が響いている。


 さて。


 俺はスケートボードを3枚脇に抱えて持ち、美少女二人に話しかけた。


「はじめまして、刈谷の友達の沢谷颯太です。二人は、七瀬陽南乃さんと氷室雪菜さんでよかったですよね?」


 俺は偽名を名乗り、初対面を装った。ちなみに今変装しているのは、普段のモブ、お洒落な大学生とも違う、高校生の爽やかイケメンである。名前も、爽やかそうだから、沢谷颯太と安直なネーミングだ。


「はい。刈谷くんの代理で来た方ですよね?」


「うん、今日はよろしくお願いするよ」


「こちらこそよろしくお願いします。氷室さん?」


 ぽけーっとしてる氷室さんを七瀬さんが呼ぶと、ハッとしていた。


「あ、えっとよろしくお願いします。えっと……沢谷くん?」


「よろしくね、氷室さん」


「は、はい」


 何で緊張してんだ、この子は。さっき打ち合わせしただろうに。


 つい数十分前のことを思い出す。


 ***


「スケボーパーク、来ちゃいました……」


 七瀬さんに先んじて到着した俺たちは、ベンチに座って打ち合わせをしていた。


「なにびびってるのさ」


「び、びびるよ! だってスケボーなんて柄悪い人がやるものじゃないの!?」


「髪染めた時もそうだけど、どう育ったそんな風になるの」


 とは言いつつも、スケボーはそういう文化の側面を持つので、否定はしづらい。だが、今はそんなイメージは薄れ、むしろ、だ。


「いい? 氷室さん?」


「は、はい」


「オリンピックがあってからスケボーシーンは盛り上がってきている。今や、ファッションの一環として嗜むことも普通なんだよ」


「ファ、ファッション?」


「そう。服装的な意味じゃないよ」


「わ、わかるかも。スケボーしている人ってかっこいいし、リア充感が……あ」


 俺は頷く。


「にわかはダサいけど、ある程度滑れたら、スケボーはファッションとして成立するんだ。想像してみて、休日に何してる? って聞かれたときのことを」


「……えへ、えへへ」


 にやけても可愛い。


「ま、そういうわけだから、スケボー。このパークは初心者歓迎で、全部レンタルできるから、まずは俺の用意した服に、あそこの更衣室で着替えてきて」


「うん! わかった!」


「俺も別人に変装してくるから、その時は沢谷颯太で頼む」


「沢谷颯太、うん覚えた。設定は、グループのメッセージ通り、風邪で行けなくなった刈谷くんの代役でいいんだよね?」


「そう。いろんなことに明るい同級生の友人で、俺からは今日のプランを預かっている、って設定ね」


「わかった。それじゃあ、刈谷くんにもらった服に着替えてくるね」


「うん、じゃあ時間に待ち合わせ場所で」


 ***


 なんて打ち合わせをしたはずなのに、俺に緊張するなんておかしな話だ。


 そう思っていると、じ〜っと七瀬さんに下から覗き込まれる。


 な、何だ? まさか、くるみだと疑っている?


 いや、そんなはずない。まだ会って数分で、俺の変装は完璧だ。それに、七瀬さんは校内にくるみがいると疑っているから、校外の人間を疑いはしないはずだ。


 そう思うが内心ひやひや。


「ど、どうかしました?」


「あ、すみません。氷室さんが萎縮しちゃうほど格好いいのかな? って思って」


「まあまあ失礼だね」


「あはは! さーせん、でも、これで距離縮まりましたね! 同級生だもんね、敬語とかもやめてい?」


 なんだこのコミュ力お化け。


 とにかくバレなくてよかった、と内心安堵のため息をつく。


「もちろん。堅苦しいのは苦手だから助かるよ」


 こうして氷室さんの趣味探しは幕を開けた。


 ————————————————————————————————————


 週一更新を目指してます。その間、よければこちらの作品をお読みくださると嬉しいです。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648551057873

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