趣味探しを無双せよ2
このスケートパークは二面形式。障害物がある玄人向けのセクションエリアと何もない初心者に優しいフラットエリアにわかれている。
普段は、凄技が見れるセクションエリアに注目が集まるが、今日は違った。
ショートパンツから伸びる眩しい生足、可愛さ溢れるビッグティー、遠目にもわかるほど綺麗な顔。七瀬陽南乃がフラットエリアで注目を浴びている。
「じゃあ沢谷くん、教えてよ、スケボー」
心臓を打ち抜きそうな眩い笑顔の七瀬さんに、俺は告げる。
「その前に、着替えてもらおうかな?」
「着替え? スケーターっぽいファッションをしてきたつもりだけど?」
「スケーターファッションっていうのは、氷室さんみたいなのを言うんだよ」
氷室さんに目を向ける。
ぶかっとした茶色のスケーターパンツに、白のTシャツ、それに黒のバケットハット。七瀬さんみたいな可愛いエロさみたいなのはないけれど、クールでかっこいい雰囲気がある。
「あんまり違いがわからないけど? 沢谷くんは氷室さんのが好み?」
「わ、わわあ、私のことをそんな目で!?」
内心のためいきを隠しつつ、沢谷颯太らしく、違うから、と爽やかに笑う。
「ズボンの問題。こけたら危ないよ?」
「なるほど、沢谷くんは、この私のエロい生足に傷がつくのが怖いわけだぁ。でも、ごめんね、予約済みだから傷つけるつもりはないんだ」
「じゃあ着替えよっか?」
「つまんないねぇ、沢谷くん」
「あんま女の子がそういうこと言わない方がいいよ」
「普段は絶対に言わないよ、でも、なーんか、沢谷くんには言っていい気がしたんだよね〜」
あはは〜、と七瀬さんは笑うが、俺の内心はひやつく。
それって、本能的に俺がくるみだと気づいているんじゃないか?
ぶるりと震えるが、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
今の俺は沢谷颯太。刈谷優でも、くるみでもない、別人だ。七瀬さんは校内に目を向けているのだから、疑いもしないはず。
そうだ、バレるはずなんてない。
「で、沢谷くん、それじゃあ私はスケボーに乗れないの?」
「陽南乃ちゃんは、出来ないの?」
「そんなことないよ。こんなこともあろうかと、実は用意してるんだ」
と俺は背負っていたバックパックから、スキニータイプのジーンズを取り出す。
「これに着替えてきて」
そう言うと、七瀬さんは少し黙ったのち、笑顔を向けてきた。
「いや、悪いよ。彼女さんのでしょ?」
別にそうではない。氷室さんのと一緒に調達しておいたものだ。
と、言うと、気遣うだろうから、あえて嘘をつく。
「姉さんが着なくなったものだから、気にしなくていいよ。というか、嫌だった?」
「ううん、じゃあ借りさせてもらうね。上は?」
「もちろん、あるよ」
と手渡すと、七瀬さんはすぐに更衣室へ向かった。
妙に素直な様子に違和感を抱く。何か、まずいことをしただろうか。
***
七瀬陽南乃side
私は手渡された服の着心地を確認する。
うん、ぴったりだ。
そう、ぴったりであってしまった。
口元が緩んでいくのがわかる。
沢谷くんとは、今日初めて出会ったのだ。にも関わらず、私にぴったりの服を用意できた。
サイズなどを氷室さんから聞いていたという考えもできるが、それはない。それならば、氷室さんは予め服が用意されていることを知っているはずで、「七瀬さん、出来ないの?」などと不安にはならないからだ。
刈谷くんが事前に用意していた、という考えもできる。が、それも違うだろう。この服は、沢谷くんのお姉さんのものと言っていた。であるならば、刈谷くんが用意していたものではないのだ。
サイズがたまたまあった可能性はある。だが、スキニータイプとなると、話は別。長さだけでなく、太さまで知らなければ、サイズがぴったりにあうことはない。
以上のことから、沢谷颯太がぴったりの服を用意できたのは、事前に私のことを知っていたに他ならない、と結論づけることができる。
では、沢谷颯太は何者か?
自分で言うのもなんだけれど、私のことを知っている人間、一方的に知っている人間は多々いるだろう。
その中で一人に絞ることは難しい。
けれど、氷室さんのサポートにきた人間、私がゆるい下ネタを言うことに抵抗がなかった人間、そう考えると一人に絞られる。
沢谷颯太は、くるみだ。
口元を手で押さえる。
ダメだ、まだ笑うな。
見た目で言えば、別人だ。加えて、まだ確証に至る材料は足りていない。
正体を明かしてこないところをみるに、くるみであると隠すつもりでいるのだろう。
だから。
気づいていると、疑っていると、表に出さず、言い訳のできない状況に追いこんで、確実に問い詰める。
くす、と笑う。
今日が土曜日でよかった。
24時間以上は、気兼ねなく、シ続けることができるのだから。
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