海まつりを無双せよ9
私は陽南乃ちゃんの言葉に耳を疑った。
だけど真実であることは陽南乃ちゃんの真剣な雰囲気が教えてくれた。
「話を聞いて思った。雪菜と仲良くなったことが仕組まれたことであったとしても、私が雪菜のことを大切な親友だと思う気持ちは変わらない。むしろ、その機会を与えてくれた刈谷くんに感謝すら覚える。でもね、だからこそ私は刈谷くんと雪菜を手に入れたい」
真っ白で大きい入道雲がある青空が広がる夏、自転車で坂道を下るような爽快感。しゅわしゅわのラムネのような爽快感。日向夏のような甘酸っぱい笑顔で陽南乃ちゃんは語った。
「私は二人が好き。だからこの海まつりの期間で最高の時間を過ごす、二人にも過ごさせる、そうして私から離れられなくさせてやる」
一瞬呆気にとられて、そして吹き出してしまう。
ああ、強いなあ……。
私の親友はあまりにも強い。
単純明快な解決法。それをそこはかとない明るさと自身に満ちた表情で言うのだから、さっきまで曇り切っていた私ですら晴らしてしまう。
勝てないなあ。
どうしようもない敗北感があるのに、私が憧れた人はやっぱり憧れるに足る人で、自分の目を肯定されたような嬉しさのほうが強い。
でも、ね。だけど、ね。
「それはこっちの台詞だよ。陽南乃ちゃん」
負けるわけにはいかないんだ。
負けてあげるわけにはいかないんだ。
一度恋に敗れている私は、きっと俗に言う負けヒロインってやつだろう。
ならば私はヒロインに変わりない。負けたことのあるヒロインでしかない。
私がヒロインの物語なら、勝つターンがやってくる、そしてそれはきっと今だ。
たとえ、陽南乃ちゃんが相手でも、負けてやれない。前とは違う、勝ちを譲って諦め悲嘆に暮れていた私じゃない。刈谷くんは、陽南乃ちゃんは、勝ちを譲って諦め悲嘆に暮れられるほど、希薄な存在じゃない。絶対に二人共譲れない。
ここで勝つしかないというくらいのクライマックス。ここで負けたらヒロインなんてのは嘘だ。負けヒロインではなく、それは噛ませ犬というものだ。
氷室雪菜は負けヒロインか噛ませ犬か。当然、前者だ。
心に火が灯る。熱い血潮が漲ってくる。
「ふーん、言うねえ、雪菜」
「うん。海まつりの終わりまでに、刈谷くんと陽南乃ちゃんを射止めるのは私だよ」
「そっか。よし、やろうよ」
陽南乃ちゃんが突き出してきた拳。それに私は、試合開始を告げるように拳を合わせたのだった。
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