放課後の成果


 朝、学校に行くと、氷室さんがクラスメイトに囲まれていた。


「氷室さん! 陽南乃のインスタ見たよ! めちゃくちゃ楽しそうだったじゃん! 羨ましい!」


「そうそ! それに生ドーナツ食べたんだ! あのお店で食べれるなんて知らなかったよ!」


「今度食べにいくし! えっ、占いも行ったの!? 楽しそう! いいなあ!」 


 なんて、尊敬と羨望が入り混じった言葉をかけられている氷室さん。戸惑ってはいるものの、キラキラの青春を送れていたことを自覚してか、すごく嬉しそうに口元は緩んでいた。


「今度、私たちとも遊びに行こうよ!」


「いいね! 俺たちも一緒に行っていい?」


「おっ、じゃあクラスで行く?」


「じゃさじゃさ、カラオケ行って、食べほ行こーよ!」


「賛成! テスト前の決起集会じゃあ!」


「嫌なこと思い出させんな〜!」


 なんて明るい声が教室に満ちている。


 それを微笑ましい気持ちで眺めていると、声をかけられた。


「キラキラの青春ってやつ? 氷室さん、送れるんじゃないかな?」


 七瀬さんが気づけば後ろにいた。ひっ、と声が出そうになったが、普段の調子なのに気づくと、落ち着きをとりもどす。


「だね」


「うんうん、よいことじゃあ」


 なんて言う、七瀬さんの目の下にくまを見つける。


「七瀬さん、夜更かしでもした?」


「うんちょっとね〜、どうも寝られなくて」


「大丈夫?」


「思い起こされると、大丈夫じゃなくなってくるから、この話題はやめよう」


 そう言うと七瀬さんは氷室さんに抱きつきに行った。


 七瀬さんの登場に場がさらに温まる。


 何だか七瀬さんの様子が変だったな。まあでも、バレていないようだし、体調もめちゃくちゃ悪いというわけでもなさそうだし、特に気に留める必要はないか。


 それより氷室さんだ。俺は、こういう展開になることを想定して、放課後わざと話題になるようなことを選んでいた。というのも、氷室さんがキラキラな青春を俺の助けなしで送れるようになるためには、クラスメイトに馴染むことが最低条件だったからだ。


 結果、企みは成功。この調子なら、すぐにでも俺の助けは必要なくなるだろう。そしたら依頼達成、今のような関係は終わりだ。


 なんて考えながら、俺は席につこうとする。が、クラスメイトに招かれる。


「おっ、刈谷もいんじゃん。いまさ、クラスで遊びに行こうって話をしてて!」


 お呼ばれしたので、俺も輪に混ざった。



 ***


 次回 七瀬陽南乃side

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