趣味探しを無双せよ9


 スケートボードを楽しんだ後は昼食。選んだお店は、古びた洋食屋さんだった。


「おいひ〜」


 フォークに刺したハンバーグを口に入れてすぐ、幸せそうに頬を緩める氷室さん。頬が落ちそうになるほど美味しい、という表現があるけれど、あれは自分の感覚じゃなくて、外から見た話なのだと知った。


 この洋食屋さんの今日のランチはミックスグリル。プレートの上には、お歳暮に送られてきそうな本格フランクフルトに、にこやかっぽいハンバーグ。頭がついたエビフライに、皮付きポテトに、彩鮮やかな人参、コーン、いんげん。


 価格は700円、と高校生には少しだけお高いが、それでも700円でこれなら安すぎると言っても過言ではないだろう。


 現に、氷室さんの満足そうな顔。倍額払ってもいいくらいだし、氷室さんのそんな笑顔を見るためなら5倍は払ってもいいと思える。


 ただ。


「……えろぉ」


 俺の顔を見ながら、恍惚とした顔で黙々とフランクフルトを頬張っている七瀬さんからは、お金をとりたいと思う。いや、払いそうだから無しで。


「本当、美味しい。よく知ってたね、こんなにいいお店!」


 眩しい笑顔を向けてくる氷室さんにのみ目を向けて話す。


「美味しいお店を行くってのも、趣味の一つだからね」


「あ、そっか! それ、すごくいいかも! 孤高のグルメっぽくて、ぼっちの私でも趣味にしやすそう!」


 そう言う氷室さんに、七瀬さんは笑いかける。


「あはは、私も刈谷くんもいるし、雪菜はぼっちじゃないじゃん」


「え、あ、そっか! そうだよね!」


 嬉しそうに笑う氷室さんだけれど、少しして首をかしげた。


「ん? 何か引っかかるところでもあった?」


 そう聞いて、ぶんぶん、と氷室さんが首を振ったとき、ポケットのスマホが震えた。


「あ、ごめん、電話が来たみたい」


 俺は席から立って、元喫煙所の電話スペースへと向かう。振り向いて七瀬さんの追跡がないことを確認し、ガラス扉をひらいた。


「あ、刈谷の坊ちゃん」


 電話に出ると、昔馴染みの男の声。この男も、刈谷つながりで親しくしている人間。そして、俺の計画を行う店の店主だ。


「どうもです、今どんな感じですか?」


「予約がバンバンきてますよ、順調です」


「そうですか、ありがとうございます。お礼はまた後日改めて……」


「ああ、いいのいいの。その代わり、何かあったらよろしくね、当代!」


「いやまだ開業するとは……」


 俺の言葉の途中で、通話が切れてしまった。


 はあ。また説明しないと。


 そう思ったとき、ガラス扉が開かれた。


「沢谷くん」


 名前を呼ばれてびくつく。だが、声の主を見て、ほっと胸を撫で下ろした。


「どうしたの、氷室さん?」


「ごめん、少しだけ時間もらっていいかな?」


 思い詰めたような顔の氷室さんに、俺は頷いた。







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