趣味探しを無双せよ7

お待たせいたしました。更新予告は活動報告にあります。

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 シャバの空気が美味い。


 更衣室の外へ出た感想は、それだった。


「沢谷くん、陽南乃ちゃん、一体何かあったの?」


 戻ったら氷室さんにそう問いかけられたので、誤魔化すように笑う。


「あはは、いや、まあ大したことではないよ……」


「うんうん、雪菜は気にすることじゃないよ」


「わ、わわ、雪菜!? 名前呼び!?」


「てか、これから雪菜でい?」


「ぜ、是非!」


 ありがとー、なんて、さっきの面影もない青春キラキラ笑顔を浮かべる七瀬さん。あまりの切り替えぶり、追求されないよう名前呼びでさらっと話を変えたことに、サイコなんじゃないかと疑った。だけど、そうであろうとなかろうと、許容ラインは越えているので些事だった。


 そう些事。優れた容姿と性格を全て台無しにする、大きな欠点を抱えた七瀬陽南乃という美少女。今は彼女から、どう逃れるかを考えなければいけない。


 氷室さんには悪いが、ここは沢谷→くるみ→刈谷につながるような情報を与えないため、すぐさま逃げるのが優先事項。氷室さんの趣味づくりは、また機会を作ればいい。


 そうと決まれば、コンビニ行く〜、とか言って、撤くか?


 うん、そうしよう。


「あ、そういえば、飲み物買い忘れた。ちょっと、コンビニ……」


「は? すぐそこに自販機あるのに、コンビニに飲み物買いに行く? え? まさか、逃げようとしているわけじゃないよね?」


「ああ! 近くに自販機あったんだ〜! 二人とも飲み物何にする?」


 冷たい早口が飛んできたので、俺は頑張って取り繕った。


 どうやら、対応は正解だったようで、七瀬さんは、なんだぁ〜、とニコニコ笑顔に戻った。


 ……これ、七瀬さんの中に俺が逃げてる可能性残ってるな。8、9割は、俺が逃げてたわけじゃないって騙せてるけど、疑念はあるって感じ。不用意に逃げたら、警戒されてるからしくじる。そして捕まれば殺される。


 そ、早急に、完璧な逃走計画を立てなければ。


「ひ、陽南乃ちゃん?」


「ん? どした、雪菜?」


 氷室さんはゴシゴシと目を擦って、見間違いだったか、と間の抜けた顔をした。


 ずっと友達になりたかった憧れの存在がヤバい奴だった、なんて氷室さんに気づかせたら可哀想なので、注意を別に向ける。


「で、二人とも、何を飲みたい?」


「え、うん。あ、でも悪いよ。私が行くよ」


「いやいや、俺に行かせて!」


 七瀬さんと二人になるのが怖くてそう言うと、氷室さんは少し引き気味に頷いた。


「じゃ、じゃあ、何飲みたい?」


「そだね〜。気分的には、ヨーグルトかなぁ〜」


「いや、売ってないでしょ」


「あはは、ごめんごめん、冗談! じゃあミルクがいいなぁ〜」


「ミルクティーね」


「違う違う。白いやつ」


「紙パック売ってるタイプの自販機じゃないから」


「うーん、ならカルピシュ!」


「陽南乃ちゃんがカルピシュ飲むの!? 青春キラキラ女子がカルピシュを、ごくごく、と……そんなんもう、CM見てるのと一緒だよ! ただ見ていいの!?」


 なんて言う氷室さんに、彼女が今何を飲みたい気分なのか伝えると卒倒するだろう。


「あはは〜、何言ってるかわかんないけど、CMはお金払って見るものじゃないよ〜」


「そ、そっか。そうだよね。あ、でも、絶対飲みたくなるから、沢谷くん、私もカルピス」


「了解。氷室さん、これからテレビショッピングとか見すぎないようにね。財産尽きるよ」


 俺は二人のもとから離れて自動販売機へ。


 歩きながら、どうしたものか、と考える。


 どうにか逃げなきゃいけないけれど、不意に離れようとすると、きっとさっきみたいに疑われる。トイレ、とか言っても、ついてきそうだし。


 ……何しても、ついてこられそうな気がする。最終的に家までついてこられればゲームオーバーだ。


 なら、七瀬さんが俺についていけない理由をつくるしかないか?


 出来るだけ自然な状況、氷室さんの趣味づくりの流れで……いや待て、このまま走力に物言わせて逃げるってのもあり……


「くるみ」


 びくり、と振り返る。


「遅いから見にきちゃった」


 どろどろとした熱のこもった目で見られ、無理やり笑う。


「あ、あはは。まだ自販機までたどり着いてないよぉ〜」


 いつ目があるかわからない以上、強引に逃げるのは無理そう……。


 趣味づくりの流れで、七瀬さんが俺についていけない理由をつくるしかなさそうだ。




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