青春無双の始まり2
「それで3人と仲良くなれたよね? あとの5人は?」
「3人と仲良くなってグループに入れたから、あとはチョロかったよ。求められるキャラクターを演じるだけでよかった」
「キャラ?」
俺はそのときのことを話し始めた。
***
昼休み。リア充グループに呼ばれた俺は、8人に混ざって話をしていた。
「つーか、刈谷。運動できんなら、最初っからやれよ!」
「刈谷、次から絶対に俺のチームな!」
「いや、俺のチームで、サッカーそっちのけでロックを語ろうぜ」
「モテすぎて辛いなぁ」
と言うと、きっしょ、とツッコミが入り、笑いが起きる。
「何、刈谷くん、そんなに活躍したんだ?」
「シュートさえ決めてたら、もうヒーローだったわ」
「あははは。イキリすぎてダサい」
俺はナルシスト的なボケをするキャラを演じていた。
キャラは、集団の中で、個人に期待される役割だ。複雑な友人関係を単純にして、コミュニケーションを円滑にするものである。
だから期待される役割、キャラを演じれば、その集団において必要な人物とみなされる。つまり、仲良くなれるというわけだ。
このグループ、いじられキャラ、クールキャラ、ツッコミ、回し、等々存在するが、こういうキャラはいない。外聞が気になる彼彼女らにおいて、こういった役割を担う人間がおらず、需要が高いのである。
加えて。
「つか、刈谷。サッカーやってたの?」
「やってないよ。ただ多趣味なんだ」
「多趣味?」
「うん。じゃあえと、広瀬くん」
男4人の残り1人に声をかける。
「俺? 何?」
「ちょっと髪アレンジさせてもらってもいい?」
そう言うと、興味津々といった様子で俺と広瀬に視線が集まる。
「いいけど、あんま変なことすんなよ」
「変にしてあげて〜刈谷くん」
「もちろん」
「おい!」
なんて会話ののち、俺は真面目にヘアセットした。
「えっ凄っ!!」
「広瀬がカッコいい?」
「いつもは格好良くねーのかよ」
なんて言う広瀬は、スマホで自分の髪型を確認してニヤついていた。
これでまた一人。
「すごい、刈谷。私にもできる?」
「できるよ。俺、天才だから」
きっしょ、と笑い声があがったのを聞いて、冗談、といった。
「俺、多趣味だから、その道の人には負けるけど、それなりにできるんだよ」
ナルシスト的なキャラに加えて、多趣味というキャラで興味を惹く。
そしてその効果は抜群のようで、
「何できるかたしかめねーとな!」
「今日遊び行こーよ、刈谷くんいれて」
「ボーリングとかできそう! てかゲーセンとかのゲームもうまそうでウケる!」
「いいね。驚く準備をしといてくれな?」
と言うと、笑い声があがる。
こうして遊びに行き、俺は1日でリア充グループと仲良くなったのだった。
ちゃんちゃん。
とはいかない自体が起きた。
「何盛り上がってんの?」
と、声がかかる。明るく、綺麗な、聞くだけで前向きになれるような声。
「な、七瀬さん?」
「おっ、刈谷くんがここいるなんて、珍しいね」
七瀬さんが弾けるような笑顔でそう言った時、女の子の一人が言った。
「ちょおみて、七瀬。この髪型、刈谷がしたんだよ!」
くそっ、余計なこと言うな!
なんて言うわけにもいかず、ヘラヘラして言う。
「どうでしょうよ」
「え、カッコいいじゃん……刈谷くんがしたの?」
疑るような視線に内心ビクビクする。
そういえばこの前、七瀬さんは、この学校にお洒落な人がいないか聞いていた。
もしかして、俺が、くるみが、この学校にいる、とあたりをつけてる?
「どうなの、刈谷くん?」
「あ、ああ! そう! 天才的だろ、ってあ、用事思い出した、皆ごめん!」
そう言って、俺はその場から逃げ出した。
***
「というわけで、これが遊びに行った時の写真だ」
七瀬さんのくだりは省いて、机の上のスマホを指差した。
氷室さんはしばらく、ぽけ〜っとしてたけれど、目を輝かせた。
「……凄い、凄いよ! 刈谷くん!」
今度は本音の凄い。そんな感情を向けられると、気恥ずかしくて微妙な気持ちになる。
「大したことではないよ。でも、これで、俺が何でも屋だと信じてくれた」
「うん!」
大きく頷いた氷室さんがギャップで可愛い。
「ねえさ、刈谷くんがさっき言ったみたいなこと、私もやれば友達ができるかな?」
ふんすっと鼻息が荒いのも可愛い。両手をぐっとしてるのも可愛い。目がキラキラなのも可愛い。
そんな氷室さんに俺は言った。
「無理」
「え」
「絶対に無理」
「え、あ、その、友達ができる確率は……何%くらい?」
「0%くらい」
「どうして!?」
詰め寄ってきた氷室さんに言う。
「氷室さんは俺と違って遠ざけられてるから」
「ひ、ひどい。事実、そうだけど」
「だからまず、皆の印象を変えなければならない。多分、七瀬さんはそういうことを気にしないけど、変えておいた方が仲良くなりやすい」
「う、うん。今後、体育祭や文化祭、修学旅行とかの学園行事に参加するにも、遠ざけられたくないし、変えられるなら変えたい。でも、どうやって?」
不安げな氷室さんを安心させるよう胸を叩く。
「安心して。俺には氷室さん改造計画がある」
氷室さんは顔を青くして、
「な、なんか怖いからやだ」
と言った。
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