海まつりを無双せよ16
「えっと、海岸のゴミ拾い、飲食店のワンオペ、フルマラソンの水分補給、ドローン撮影、要人警護、ハッキング……こんなの出来るわけないだろ」
朝も朝から家業の何でも屋に届いたメールにお断りを入れていく。
海まつりの依頼を受けた日からメールボックスには次々と仕事の連絡が届き、アイコンには常に99+の数字がくっついている。
「はあ……。そうだよなあ」
早朝なのにカップのアイスコーヒーから冷気の煙が見える。マグカップを持ち上げ喉にカフェインを流し込み僅かに残った眠気を飛ばす。はっきりとした頭で再度考えるけど答えは変わらない。
青春は一時の輝き。
いくら色鮮やかな美しい時間であれど、人生の僅かな時間でしかない。
花火が打ち上がり、爆ぜて大輪の花を咲かせ、大きな音が轟く。胸を打ち、素晴らしさに心に踊る。
しかしながら、終われば余韻に浸ることしかできない。
青春なんてものはそんなもの。
瞬きでしかないのだ。
「ふう」
メールを返し終えて俺は一息つく。
画面に映る時間を見ると、午前七時。
そろそろ行くか、と俺は身支度を始めた。
***
海まつりの会場に着くと壮大な景色に目を奪われた。
並び立つ屋台のテント。
わらわらといる作業に勤しむ人たち。
期待と興奮からくる活気のいい声。
そして砂浜と海をバックにした大きな音楽ステージ。
海 晴れの日。そんなワードで検索すれば一番いい写真としてここが出てくるだろうと思える景色だ。
「おっ、刈谷くん。来たねえ〜」
運営のテントに行くと七瀬さんに声をかけられた。
「刈谷くんはSかな? Mかな? どっちがいい? どっちでもいいよ?」
「Lで」
意味ありげに聞いてくる七瀬さんに、ちゃんと服のサイズを答える。
七瀬さんは既に海まつりの運営Tシャツを身に纏っている。STAFFの白文字がついた黒Tシャツなのだけれど、七瀬さんが着ているとお洒落に見えてくるのが不思議だ。
「は〜い」
手渡されたTシャツに着替えて作業にかかる。
当日運ばれてきたテントを立ち上げたり、出店した屋台がきているか回って確認。
忙しなく慌ただしい時間を過ごして日が高くなった頃、海まつりの運営に召集がかかった。
砂浜。大きなステージの前。各校の生徒が集まってくる。
皆、この期間で仲良くなったみたいで他校の生徒ともそれぞれに会話している。その中には氷室さんもいて眩しいくらい輝いて見えた。
「えー、えー、皆さん、今日までお疲れ様でした!」
舞台上の大谷さんがマイクを持って話しかけてくる。
「皆さんのお陰で最良の海まつりを開催することが出来ました! 見てください!」
と、大谷さんが指を差す方向は駐車場。ひっきりなしに車が入ってきていて、まだ屋台が始まらないこの時間にも沢山の来客があった。
「たくさんのお客さんに恵まれたこのお祭りは皆さんが作ったものです! 皆さんえらい! よく頑張りました! 拍手!」
皆からわーきゃーと歓声があがる。
「皆さん、この後も仕事の割り振りはありますが……ところで、このお祭りのテーマは覚えていますか?」
皆が頷くと大谷さんはにやと笑った。
「そう一日リア充! 仕事が終われば皆さんも最高に楽しんでくださいね!!
大きな歓声が湧く。
『よっし、縁日ご飯を食べまくるぞ!』
『ねーねー、どこから行く?』
『私、ステージ見たいんだよね!?』
『早く浴衣着に行きたーい!!』
『あ、あの私と一緒に回ってもらえませんか?』
楽しげな声が方々から聞こえ騒がしくなった時、肩を叩かれた。
振り向くと、七瀬さんと氷室さんがいた。
「刈谷くん、お祭り一緒に回りたいな」
「うんうん、何から行く? 刈谷くんはどこ行きたい?」
こうして海祭りの二人との最後の日が幕を開けた。
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