海まつりを無双せよ11


 バスから降りた瞬間、フルスクリーンにしたときみたいに夏の景色が広がった。


 波が立ちキラキラ輝く青い海、大きな入道雲に真っ青な空。髪をかきあげる潮風。照り返るアスファルトの道路に延々と続く防波堤。そしてじりじりと肌を焦がすような太陽。


 夏本番といった感じ。思い返せば六月頭から七月中旬の今までずっと暑かったので、今年の夏リハーサルはなかったみたいだ。


「さあ、頑張りますか!」


 ぐっと伸びをした七瀬さん。大きな胸が白いワイシャツを張り上げ、その上を下げられたネクタイが滑っている。制服は既に夏服。相変わらずアオハルという言葉が似合っていて眩しさに目が眩む。


「そうだね! 海祭りの開催も近づいて来たし、これからもっと忙しくなるよ!」


 ぐっと拳を握る氷室さんのテンションがやけに高い。ニコニコとキラキラとする氷室さんはひたすらに可愛くて、キュートアグレッションが出てしまう。


「うん。テストも終わったことだし、実行委員会に集中できるね。テストも終わったことだし」


「あ……」


 口が半開きになった氷室さんがまた可愛い。


「そだね。テスト結果は上々だったし、これで安心して頑張れるわ〜。今回もトップ10は固いかなぁ」


「七瀬さんは頭いいね」


「まあね〜。でも刈谷くんほどじゃないよ。全教科ぴったし平均点は流石にやりすぎ」


「狙ったみたいに言わないでくれる?」


「違うの?」


「……さあ? ところで氷室さんはどうだった?」


「え〜と……そんなことよりさあ! 海祭りまでもうあと二週間だよ!」


「雪菜の補習まで?」


「違うよ!」


「雪菜の留年まで?」


「違う! しかもそこまで悪くない! 赤点も一教科だけだからっ!」


 ぷんぷんする氷室さんに二人笑う。遅れて氷室さんも笑った。


 ここ一週間の間でかなり仲が深まったように思う。


 学期末で夏休みまであと数日。海祭りまであと二週間。俺が二人との関係が切れるまであと二週間と一日。


 からっと乾いた風が吹く。うだるような暑さがなくて爽やかな海辺にどこか冷たさを感じる。


「もう! 今日から頑張るんだからマイナスなこと言うの禁止! 実行委員会に行こう! 二人とも!」


「マイナスなのは雪菜だけなのでは?」


「正論禁止!!」


 そう言ってスタスタと歩いていく氷室さんに遅れてついて行った。




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