趣味探しを無双せよ4
「じゃあ氷室さんはプッシュ。七瀬さんは出来そうだし、違うのを教えようかな」
「ええ〜、できないよ多分」
「できるでしょ。はい、板の進行方向に爪先を向けて置いて」
こう? という感じで見てきたので肯く。
「そう。それから地面についている足を蹴って、その足を板に乗せる」
すい〜と進んでいく七瀬さん。
「うん、出来てる。それじゃあ慣れるまで乗ってもらえばいいよ」
「また放置するんだぁ〜?」
またという言葉に内心びくりとする。さらに責める視線にも肝を冷やす。
「今謝るなら許してあげるけど?」
な!? 俺がくるみだとバレてる!?
それならば俺の謝罪を待っているということで、今のうちに謝って被害を軽微に……いや待て。
あの七瀬陽南乃が軽くできる自制心など持っているはずがない。そもそも重い軽いの判断ができるならば、あのような長文メールを平気で送れるわけがないのだ。
で、あれば、これは鎌をかけてきている。俺に謝らせ、俺がくるみだと自白させようとしている。
いや、考えすぎ。また放置、というのもそれはそうなのだ。着替えに行ってきて、と放置、そしてちょっと乗らせたかと思えば放置。当然、また放置するんだ、と不服に思う。いや、そう。それしか考えられない。
肩の力を抜く。気を抜けと言ったそばからこんなんじゃ、今日一日持たない。もっと気軽に行こう。
「また、ってさっきだけでしょ。放置じゃないし、ちゃんと見てるから」
そう一応の保険をかけて言うと、七瀬さんはちぃぇと微かに聞こえるくらいの舌打ちをした。
「じゃあしゃーなし。ちょっと乗ってくる」
すいー、とフラットエリアを滑りに行った七瀬さん。そして戻ってきて俺たちの周りをくるくる滑り出した。
スケートボードの方向転換は難しい。体重移動によって曲がる方法であっても難しいが、七瀬さんは難しい方の曲がり方をしている。テールと呼ばれる板の後ろを踏み、前を浮かせて曲がりたい方向に着地させ、曲がっている。
この子、本当に運動神経いいなあ。襲われたら俺でも対処できるかどうか……。
「私も乗れるかなぁ?」
可愛らしく小首を傾げた氷室さんに癒され、緊張が緩む。
「まあ乗れると思うよ。まずは、つかまって乗るところからかな」
「う、うん」
氷室さんが恥ずかしそうに両手を前に出した。
「何してるの?」
「え、掴まって乗るんじゃないの?」
俺はエリアの隅を指差した。
「柵。柵に掴まって乗るんだよ」
「〜〜〜っ!?」
氷室さんは顔を真っ赤に染めた。可愛らしいので、いじってみる。
「そんなに俺と手を繋ぎたかったの?」
「ええ!? ちょ、そ、そういうつもりじゃ……」
「ははっ、冗談だ……」
その時、横から突っ込んできた何かに跳ね飛ばされた。
何が起きたのかわからず顔を上げると、七瀬さんが黒い笑みを浮かべていた。
「セクハラは感心しないなぁ」
どうやらスケボーで勢いつけた七瀬さんに突き飛ばされたようだと理解する。
理解して思う。
これ事件だぞ。
氷室さんにセクハラ紛いのことをしたのは謝ろう。だが、ここまですることか?
わかっていたことだが、この女。頭のネジが外れてやがる。
いや。学校での七瀬陽南乃はこんな頭のおかしな人間ではない。
と、すれば、ある可能性に思い至る。
俺がくるみだと気づいていて、女の子にセクハラを働いたのを許せなかったという可能性だ。
「でも、ごめんね。こんなに勢いつくと思ってなくて」
「あ、うん。いいよ、別に」
立ち上がりながら考える。
こうなるとは予測できていなかった?
ならネジが外れてはいない、頭のおかしな人間ではない。よって俺がくるみだと気づいていない。
また俺の考えすぎか?
七瀬さんの表情を窺う。一見してまずったぁという顔をしている。
不味いことをした、普通に捉えるならば、やりすぎたことに対する後悔。
だが、別のことへの後悔のようにも思える。
……たしかめてみるか。
七瀬さんは氷室さんへのセクハラに我慢できなかったとみるべき。
氷室さんを見る。
イチャイチャして反応をたしかめてみよう。
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