とにかく明るいヤンデレ七瀬陽南乃との出会い3


「楽しかったね♡」


「そうだね……」


 ツヤツヤ顔の七瀬さんとカラオケを出る。


 あれから、写真を撮ろうと顔を近づけられたり、同じドリンクをとってきてグラスを入れ替えられたり、私前世がコアラなの、とか苦しい理由で腕に巻きつかれたり、とその他数々のことがあった。


 そのため、精神がすり減りへろへろ。多分、頭は回ることをやめている。厳しい修行を積んだ自分がなんて様だ、と思うのも怠くてしかたない。


「ねえさ、これからどこ行く? まだ19時だけど、休憩? 宿泊?」


「どちらも。明日は月曜日。学校に遅刻するよ」


「えー、遅刻してもいいよー」


「遅刻なんてしたら、皆を失望させちゃうよ」


 七瀬さんは文武両道の優等生という超絶リア充なのである。遅刻でもしようものなら、周囲を失望、心配させてしまうだろう。


「……」


「どうしたの?」


 急に黙った七瀬さんに問いかける。


「いんや何も。んー、まあ、そっか。じゃあ帰ろうか、家まで送ってくよ」


「それは遠慮しておくよ」


「送らせて? お願い?」


 目をうるうるさせて可愛くおねだりしているけど、住所特定が目的だろうから可愛さのかけらもない。


「駄目。それに俺が送るよ。今日危ない目にあったばかりだし、怖がりながら帰らせるわけにはいかないだろ」


 そう言って、歩き始める。相手がいかにヤバい奴とはいえ、襲われた日に一人で帰すわけにはいかない。


「……本当に優しいね」


 七瀬さんは夜でもわかるくらい、ぽーっと顔を赤く、目はとろんとさせていた。


 そんな姿を見て、絡まっていた鎖が全て解けたようなイメージが脳内に湧く。何だか、押してはいけないスイッチを押したようなそんな気もする。


 何故か見ていられなくて、俺は七瀬さんに先んじて歩き始める。学校の位置、飲み屋街にいたことを考えれば、七瀬さんの家はこっちの方だよな。


「あれ?」


 立ち止まったままの七瀬さんを不審に思い振り返ると、すぐにぴたっと隣に並んできた。


「帰ろっ」


 夜なのに、爽やかな青空が見えそうな笑顔。背景に白い砂浜と綺麗な海まで見える。


 きっと今日のことは何かの間違えだったんだ。


 その考えが正しかったようで、家に送り届けるまで七瀬さんはいつもの七瀬さんで、sunだった。


 この調子なら、今日だけの付き合いじゃなくても良さそう。ゲーム友達を続けても良いかもしれない。


 あたりはすっかり暗い。帰路を辿る足をはやめる。


 もうしっかりと夜だ。1日経ったし、そろそろ依頼内容は決まったかな? 


 スマホを取り出して確認するが、まだ氷室さんからのメッセージはなかった。


 代わりに、別のアプリのメッセージ音がなる。


『もう家に着いた? 着いたなら近くに住んでる感じかな? ならたまたま出会うこともあるかも、楽しみ! あ、まだ着いていない可能性もあるよね? どうでもいいか、そんなこと。帰り道はドキドキしすぎて、普通になろうと頑張ってたけど、抑えきれなくなったからメッセージを送るね! 今日はありがとう。私、悪そうな人たちに囲まれて本当に怖かった。だから、その分、颯爽と助けてくれてすごくすごく嬉しかった。あはは、こんなまじめなの私には似合わないか。でも、しっかりと気持ちを伝えたいって思うくらい、感謝してる。感謝しすぎてさ、ちょっと抑えきれなくて。それにさ、まえに、ちょっといいかもって思ってるって言ったの覚えてる? 私、本気で言ってたんだ。だから、助けてくれたのがくるみだったからもう、本当に、本当に、なんて言うのかな? 落ちたって言うのかな? あはは変なこと言ってごめんね。でも、くるみも私のこといいなって思ってくれてたら、嬉しい。私一生喋れるかもしれないけど、一生楽しく喋れるのはくるみだけだからさ。あ、でも、今すぐ付き合ってとかそんなんじゃないよ。私がじわじわと染め上げてあげる。って怖い? そんなことないよね。ドキドキしてるんじゃない? してないとか言ったら、ちょっと病んじゃうかも。うそうそ。二割くらい。ってかさ、そもそもくるみって彼女いる? いやいてもいなくても、彼氏にする予定だから、あーいや、彼氏とかじゃなくてくるみの女になるつもりだから、関係ないけど。でも、いたらちょっとやだなぁ。私は初めてなのにくるみは初めてじゃないってことだもんね。嫉妬して、刺しちゃいそう。なんてね、さすがに私もそんなことするわけないから。わけないよね? 自信なくなってきたぁ〜でも、それくらい好きってことだから。ううん、愛してるって言っても差し支えないかな。いきなりすぎて重いか。でもさ、私、今日きた初恋に、重くなっても仕方ないくらい心臓が高鳴ってるんだ。世界の色は鮮やかだし、くるみを思うと胸と息が苦しいし、お腹の奥がキュンキュンするし。って、変態チック? でも事実そうなんだから、引かないで〜許して〜。ごめんね、変な話ばっかして。私が言いたいのはまた遊びませんか? ってこと。sunとくるみじゃなくて、お互い本名で。現実の姿で。って変な話だなぁ。とにかく、あなたの女になりたいから、仲を深める機会をくれませんか? かしこまっちゃったけど、それで私の気持ちが少しでも伝われば良いな。ま、そういうわけで、来週の土曜日デートをお願いします! 多分デレデレしちゃうけど、頑張って我慢して、あなたのことを落としてみせるから! あ、だからといって身構えなくても良いよ! それじゃあ、お返事待ってます!』


 目が眩むほどの長文に恐怖で震えが止まらない。


 零時の墓場、霊が出るトンネル、いわくつきの部屋、どれも比にならない寒気がする。


 俺は、白ヤギさんのごとく読まないことにして、震える指でそっとブロックをした。


 怖い。もし俺が刈谷優だと、近くにいると知ればどうなるだろうか?


 恐ろしすぎて想像することを脳が拒んだ。とにもかくにも、何でも屋どころか、まともに生活を送ることすらできなくなるだろう。


 よかった変装してて……本気で。もう二度と関わらなくて済む。


 その時、メッセージ音が鳴る。アイコンは氷室さん。


『依頼内容が決まりました。私に、キラキラの青春を送らさせてください、そのためにも憧れの七瀬陽南乃さんと友達になりたいです』


 読み終えた瞬間、目の前がまっ暗になった。


 ————————————————————————————————————

 次回、七瀬さん視点。


 モチベーションになりますので、☆、感想、フォロー、どうかよろしくおねがいいたします。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る