七瀬さん悩む


 爆弾魔の如く、学校中に手錠とロープと鉄球付きの足枷を仕掛け終えた私は、教室に入り、驚愕の光景を目の当たりにした。


 恋を知る女の子なら誰でもわかるような、嬉しくて愛おしくてたまらない、といった顔。そんな顔を雪菜は刈谷くんに向けていたのだ。


 他の女の子が刈谷くんに向けていても私は何も思わなかっただろう。思ったとしても、きっと、残念、彼は私の男なんだよね〜、で終わりだ。


 だけど、それが親しい友の、心から大切に思う友の、特別で大事な友の雪菜だったからこそ思った。


 は? 何、雪菜。え、何で、くるみにメス顔向けてんの? いやダメでしょ。あなたは、綺麗で可愛くて、いい子なんだからダメでしょ。調度品のように綺麗な顔、細長くて美しい手脚。スレンダーな体型は美の化身と言っても過言ではないくらいバランスがいい。顔は黄金比のぐるぐるが見えそうなくらいに綺麗で、尚且つ愛嬌があって可愛い。それなのに色々と緩くて、ふんわり柔らかそうで、抱きしめれば折れてしまいそうな華奢さがあって……くそエッチ。香りも女ですらくらっときそうなくらいエッチな匂いがする。多分、あの蜜柑一杯食わせた牛が蜜柑の味がする! みたいな感じで、媚薬飲んで育ってきたんだろ。エッチな匂いがプンプンさせやがって、くそ。それに、ぎゅうぎゅうに揉みしだきたくなるケツをスカート越しにライン見せつけてて、マジ変態的。多分、高層ビル99階から飛び降りても、そのケツに着地すれば助かる。何、柔軟剤使ってるの? れ○あか? れ○あ使えばいいのか? ドラム型洗濯機使って天日干しすればいいのか? それに、おっぱいも美乳だろ。彫刻にさせてくれって依頼来てんだろ。ヌードモデル界最強たる彫刻の嫉妬と羨望の眼差しを浴びて、自尊心満たしやがって満足か、おらっ。脚も舐め回したくなるようなほっそくてすべすべの脚してよぉ。妖精が住う森。そこに踏み入れたミニスカートの氷室雪菜。彼女の生足にはフェロモンにつられた妖精たちが群がる。だが、脚のあまりにもすべすべさ具合に摩擦ゼロで滑り落ちていく妖精たち。雪菜は、そんな妖精たちを見て、ああ、今日も蜘蛛の糸ごっこ楽しかった、と屈辱を与えて帰っていくのであった。なんて悪いやつだ、なんて悪い女だ、いや、なんて悪いえっちメスだ。しかも、声までいい。甘くて、ついそわついちゃいそうな声は、声優として全世界に発信すれば、世の人間を堕落させてしまう。人間を神ではなく愚かで矮小なる人間だ、と自覚させてしまう、いわば禁断の果実と同じ。アダムとイヴは、黄金のりんごを食べて、いやこの声を聞いてパンパンに膨らませた黄金の玉を食べたに違いない、子孫繁栄万歳か。よく考えれば、子孫繁栄万歳と氷室雪菜の字とか語感とか似てる気がする。何も被ってるところはないけど、似てる気がする。ということはつまり、雪菜は生まれながらにしてえっちの申し子。いわば神に選ばれし、えっちメスだ。くそぉ、なんてエッチなんだ。無慈悲に叩きつけて、ひぃひぃ、言わせたくなるような性格もまた、心の剣がムカムカさせてくる。きっと誰しもが、八岐大蛇に立ち向かうスサノオの如く、酔いつぶして剣を存分に振り回したい、と思うだろう、クサナギの剣は恐らく、全てを終えて賢者となった時に見た剣のメタファーだろ。このえっちメスめ、成敗!


 ということを、わずか一秒たらずで思った。


 要約すると、危機感を覚えたのだ。くるみが雪菜の魅力に堕ちないか、奪われないか、という危機感を覚えたのだ。


 同時にこうも感じた。雪菜は大切な友達で、その子の尊い愛情を無残に散らせてしまってもよいのか、と。


 くるみとはヤリたいし、まあワンチャン今からズボンまるく切り抜いて、授業は膝の上で受けたいまであるし、お仕置きもまだ済んでいないし、彼女、嫁の立場を諦める気はさらさらない。


 ただ、雪菜も大切に思うがゆえ、どういう形で彼女から刈谷くんを取り上げればいいのか悩んだのだ。


 結果、ぎこちない挨拶ののち、机に突っ伏した。


 あぁ、雪菜にはどう説明しよう。何を、どう話せばいいんだ。


 どうすれば傷付けず、どうすれば仲良くいられる?


 私らしくない。人付き合いについては、何でも飄々と正解を選んできた。だけど今は、全くといって正解が見えない。


 ため息をつく。


 はあ。答えが出るまでは、お預け、か。


 既にもう潤み切ってきゅきゅう泣く疼きに、私は唇を噛んだ。

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