趣味探しを無双せよ10
「沢谷くん……って、ここには二人だし、刈谷くんでも……」
「ダメ。絶対ダメ。ありえんてぃー」
「あ、ありえんてぃー? 死語だけど、えと、うん。わかった、沢谷くん」
俺は聞かれてないか、ガラス扉の後ろを見る。遠くの席に座っている七瀬さんを見つけてほっとした。
「で、何? 氷室さん?」
「うん。その、あのね? 間違ってたら言って欲しいんだけど、さ?」
氷室さんの恐る恐るといった様子に、ふわふわとした気持ちが締まる。
「真剣な話?」
「えーと、そのぅ、どうかはわからないんだけど……」
そう言って氷室さんは不安げな顔を向けてきた。
「私たち、って、友達、だよね?」
「そうだけど?」
そう言うと、氷室さんはほっと息をついた。
「良かったぁ。その、私、友達が出来たのって初めてだから、この関係がどうなのかわからなくて」
どうやら氷室さんの悩みは解決したみたいだけど、どうしてそんなことを思ったのか気になって尋ねてみる。
「何でそんなこと思ったの?」
「え? ああ、それは何だかちょっと距離が遠く感じちゃって。でも、友達ってこういうものなんだよね?」
「う〜ん」
氷室さんの質問に俺は唸る。
友達ってこういうもの……か。
まあ距離が遠く感じちゃったのは、十中八九、俺と七瀬さんが裏であれこれしているせいで疎外感を覚えたのが原因だろう。だけど、それ抜きにして、今の関係がちゃんと友達かどうかっていうのは、一考の余地がある。
今の関係は、普通に話せて、学校外でも普通に遊べる関係。友達と言うのが正しい関係だ。
でもきっと、氷室さんが憧れる友達ってやつではない。友達かどうか尋ねてきたのが、氷室さんの持つ友達像とずれている証拠だ。
ならば、今の関係では満足できていないのは明白で、それを叶えるのが俺の仕事なわけだ。
「えっと、もしかして、友達じゃ、ない?」
悩む俺に誤解した氷室さんに、首を振って答える。
「友達なのは間違いない。でも、氷室さんが思うほど深い関係じゃないのはそう。そこまで仲良くない」
仲良くない、と言われて悲しげに眉が下がった氷室さんを安心させるように、柔らかい口調で声をかける。
「でもまあ、安心して。時間が解決する問題だし」
「そ、そうなんだ」
「うん、長々とだらだらと過ごしてたら、いつの間にか深い仲になるからさ」
「う、うん! ありがとう沢谷くん!」
「まあ大体はそんな仲になる前に、切れるんだけど」
「え……切れる?」
「うん、クラス変わったり、部活の友達に行ったり、まあこいつとはこんくらいでいっかぁ、ってなったり。七瀬さんは顔が広いし、尚更だろうな」
「そんな……」
顔には絶望の色が浮かぶって表現があって、どんな色だよ、って思ってたけど、こんな色なんだ。
「ね、ねえ、刈谷くん! どうすればいいかな!?」
「本名を呼ばないで」
「あ、あと、ごめん」
「大丈夫。今、良い方法を思いついたから」
「教えて!!」
必死に懇願してきた氷室さんに、俺は七瀬さんと仲を深める方法を淡々と伝えた。
「……わ、わかった。でも、そんな状況に起こりうるの?」
「起こす。今日の午後2時、100なるから、安心して良い」
「う、うん。でも、そ、そんな大それたこと私にできるかなぁ?」
「出来るよ」
「ど、どうしてそんなに、自信があるの?」
「氷室さんは、勇気のある女の子だから」
「え」
「何だかんだ言いながらも髪型を変えた時も、七瀬さんに友達になってと頼んだ時も、放課後も今日も遊びに誘ったのは氷室さんだし、ずっと俺は氷室さんの勇気を見てきた。だから大丈夫、絶対にできる」
そう言い終えて、ぽかんとした顔の氷室さんの頭に軽いチョップをかます。
「あいたっ」
「わかったら、七瀬さんのとこに戻るよ、色々と怖いし」
「え、色々と?」
「そう色々と」
「うん?」
なんて会話をしながら俺たちは七瀬さんの下に戻った。
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