海まつりを無双せよ14
真っ青な空。じりじりと焦がしてくる太陽。照り返って眩いステージと組み上げられた金属パイプ。
炎天下の海浜公園のビーチではステージ作りの真っ最中で、金属音や離れたところで資材を運ぶ重機の音が響いている。
あくせく働くのは専門の業者の人たちだけれど、学生の俺たちも仕事がないわけではない。
フードエリアや、休憩所のテントの設営。場所割りに従ってガムテープで印をつけたり、備品や納入予定の機材の確認だったりと大忙しだ。
夏休みに突入してから数日。ここ最近の俺たちは毎日海まつりの実行委員会として日が暮れるまで働くのが常だった。
「つらーい! あつーい! しんどーい!」
学生の皆様方はそんな声を上げながら目を><にしてせっせとテントの脚を運んでいる。
テントのエリアは駐車場で熱されたアスファルトの上を歩くだけでも体力が奪われていく。
「あっはっは。皆、生きてないね〜」
俺とテントの脚を運んでいる七瀬さんが余裕そうに言った。
「元気だね」
「ふふん、そらそうです。私、七瀬陽南乃はやわな鍛え方をしてませんので」
「そうかい」
と俺はテントの脚を持ち上げる。端っこを片方ずつ持っていたので重心が俺の方から七瀬さんの方に移り、七瀬さんは目をバッテンにした。
「重〜い!! ごめんってばぁ!」
俺は元の位置、俺の方に重心が傾く位置に戻すと二人笑った。
ここ数日の間にまた仲が深まったように思う。今なら、ちゃんとクラスメイトの刈谷優と七瀬陽南乃として気のおけない仲になったっと言えそうだ。
最近の七瀬さんは、今まで避けていたりしたのは夢だった、と言ってもいいくらいにおかしなところを見せない。むしろ動向に注意を払っていた分いいところにばかりを目にしてしまい、日々七瀬陽南乃に好印象を抱くばかりだ。
「ふひー。これで一旦終わり?」
テント部品を所定の位置まで運び終えると、俺たちは休憩に建ててあったテントの下へ避難。日陰のありがたみを感じながら二人でパイプ椅子に座る。
「刈谷くん、はい」
と途中自販機で買ったペットボトルを差し出される。
ビタミン炭酸飲料のMATHo。美味しくて好きなのだけれど、別にくれたわけじゃないのはわかるので尋ねる。
「開ければいいの?」
こくりと頷かれたので、俺は手にとってきゅっとキャップを捻る。ぷしゅっと炭酸が抜ける音がしてから七瀬さんに手渡した。
「ありがとー」
ニコッと笑う七瀬さんは、やはり超絶美少女で学園のアイドルだ、と思わせるほど可愛い。並の男なら心臓は止まっているし、マリアナ海溝より深く恋に落ちているかもしれない。
「あはは。なーんか、こういうのはいいもんだね」
七瀬さんはそう言ってゴクゴクと喉を鳴らしてプハッと美味しそうに飲んだ。喉を流れる汗を辿ると艶かしい肩が見えて視線を逸らす。今日は夏休みで制服の縛りなんてなく私服姿。ノースリーブのコンパクトな白のトップスに薄い水色のボトムス。夏服の爽やかさと色っぽさの同居にドキドキする。何だかどうしようもないくらいの青さがあって、妙に気恥ずかしい。
「海辺で一緒に汗かいてはしゃいで、男子に冷たいジュースのキャップ開けてもらうなんて、すごーい青春。こりゃ雪菜のこと笑ってられないよ」
「本当にね〜」
「あら? 意外。刈谷くんはもっと冷めてるかと思った」
「そんなことないよ。そりゃ七瀬さんと青春できたら幸せだよ」
「あはは、まあそれはそうか」
自信家だなあ。でも全く鼻につかないのが凄いところだ。
「うん、でも刈谷くんそう思ってもらえるようになったのは大きな進歩だ」
「友達なのにそういうの意識されてキモいとかないの?」
「あはは! 刈谷くんに? ナイナイ! 嬉しいってそんなの!」
「そうなんだ」
「そうそう。刈谷くんがいいと感じるならさ、もうちょっとだけ青春しようよ。私はもっとしたいのに我慢してたんだから」
そう言って七瀬さんは立ち上がると、
「へいboy。キャッチミー」
挑発げに笑って砂浜に駆けていった七瀬さんにゆっくりと近づく。
波打ち際までくると既にサンダルを脱いで海に入っていた七瀬さんが脚を蹴り上げた。
水しぶきが顔にかかってひんやりと冷たい。
「やると思ったけど、こっちもやり返すからな」
「あはは! こわーい!」
あまりにもベタな水の掛け合い。だけど楽しくて浮ついて仕方なくて続けてしまう。
そのあと、水の掛け合いから服を乾かすのに堤防の上で馬鹿話をして、施設内の扇風機の前を取り合って、レストランでお互いに頼んだパスタのソースでマウントを取り合って、喉が乾いて仕方ないくらいに笑い合った。
遊びすぎて午後からの作業はヘトヘトだったけれど、
「もう動けないし疲れたぁ。でもさ、刈谷くん」
「こういうのが良いんだよなぁ」
「そうそう!」
と帰りのバスで互いに笑う。
感覚が同じでずっと楽しい。
これがゲーム友達で、気のおけない友達で、ちょっぴりと甘い女友達。七瀬陽南乃との関係なのだと感じる一日だった。
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