第31話 憤怒よ、闇に隠れよ
行政ら数名は、三左衛門の案内で輩たちの住処へと急いだ。小屋の中の様子を窺うと7~8人のやさぐれた男たちが、寝ていた。
行政にひとつの疑問が、浮かんだ。このような者に光秀様が、討たれたのか?その疑問を確かめるために行政は、長老の三左衛門に、酒と着衣を用意させ旅人に変装した。
行政は緊迫した状況の疲労の中、正体不明の軍団に襲われ、あれよあれよと悪夢のような状況に追い込まれ、現実と非現実の境目が分からなくなっていた。光秀が謎の者に確保された。言われるままに隊に戻ると確保された光秀がそこにいた。「どういうことだ」と疑心暗鬼になりながらも窮地の中の望みを覚まさせるのを恐れていた。その微かな希望が無法者に切り刻まれた。その無念と怒りを心の臓の息吹として精神を保っていた。
行政は現実逃避するように輩の居る小屋の扉をトントンと叩いた。
長兵衛「なんでぇ、てめぇは…」
行政 「いやねぇ、三左衛門さんの所を尋ねたら、
とをなさったって聞きやしたんで。こりゃ、旅の土産話にしない手はないと
思い、ほれ、これでも、飲んでもらって、武勇伝を聞かせて貰おうと、馳せ
参じやした」
長兵衛「長老から聞いてきたのか…まぁそれなら、断れねぇな、まぁ、座りな」
手土産の酒と三左衛門の紹介と聞き、長兵衛たちは気を許し、事の次第を自慢げに話し始めた。藤田行政は怒りを心に、必死の思いで笑顔を作り、聞き入っていた。膝に手を置いて座って聞く行政の握り拳は強く固められていた。
長兵衛「…そこでだ、木陰に隠れ、光秀が目の前に差し掛かった時、えいやって、槍
を奴の右脇腹に突き刺してやったのよ。そしたら、馬から落ちやがってよ、
それをきっかけに近くの侍たちが刀を抜いて、襲いかかってきやがって、こ
れはやべぇって、命さながら、逃げ帰ったってわけよ」
続けて長兵衛の仲間が話に割って入ってきた。
輩A「惜しかったよなあの鎧、豪華だったのに。ほんま、惜しいことをしたぜ」
それを聞いて、行政は我慢の限界を超えた。
行政 「そうですかい、光秀様をおやりになすったのは、おめぇさんたちですかぇ」
長兵衛「そうだとも…俺様たちじゃ、あはははは」
行政 「者共、我が主君の仇討は、この者たちに相違ない、かかれー」
行政の号令と共に有志たちが怒涛の如く小屋に流れ込み、それはそれは、あっという間に落ち武者狩りたちを切り殺した、南無阿弥陀仏。
行政は、三左衛門に村人数人と荷車を三台用意させ、光秀と思われる亡骸の元へと急ぎ戻った。亡骸をそれぞれ荷台に載せて改めて、行政は思った。
不本意にも土民ごときに討たれた光秀様の無念。亡骸の状況から、光秀と護衛のやり取りが行政には、手に取るように分かった。
自害を手助けし、介錯した護衛の者の気持ち。首級が見つかっても、秀光様と分からぬように顔の皮を剥いだ時の気持ち。さぞかし、無念だったろう、そう思うと五臓六腑が抉られるような苦渋に胸を焦がしていたに違いない。
そこで行政は、溝尾茂朝と木崎新右衛門の気持ちを受け継ごうと思ったのです。蔵三は、運搬の一行を止めさせ、長友慎之介殿、小松善太郎殿の気持ちを一行に訴えた。一同の気持ちも同じだった。行政は、溢れ出る涙と怒りを振り絞り、長友、小松の首も撥ねた。その首級の顔の皮を剥ぎ、筵に土と一緒に入れ、腐敗を進める試みを要した。
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