第55話 貞操帯

 生娘を確認した洪庵はその場を立ち去ろうとした。


忠兵衛「先生、どぜう鍋がありますがな」

洪庵 「そうじゃったな」

忠兵衛「舌鼓の前の余興に付き合ってくだされ」

洪庵 「余興か、ほどほどにな」

忠兵衛「まぁ、そう言わず異国から面白い物を手に入れましてな、ほれ、これです

    わ、ご存じかな」


 忠兵衛は手元の風呂敷包みを解いてある物を取り出した。


忠兵衛「これをご存じかな」

洪庵 「お~、見たことがある、確か貞操帯とやらでしたな」

忠兵衛「流石ですな」


 老人二人が面白がっているその物におみねも興味津々だった。


おみね「それ、何につかうのかね」

忠兵衛「おなごが他の男と情を交わさぬようにする器具じゃよ」

おみね「それを私に」

忠兵衛「求めても叶わぬ営みもこの世にあることを思い知らせたくてな。日頃傲慢な

    奴らがぎゃふんとなる様を十分に楽しませて貰うわ、わははははは」

おみね「道楽まで変わった趣向で。でも、こんなもので叶うのですか」

忠兵衛「構わぬ、思いっきり引き裂いて観よ」


 おみねは忠兵衛の自信をへし折ってやろうと目いっぱい力を込めて壊してやろうと顔を赤くして力を込めるが板を引き裂いているようにビクともしなかった。


おみね「これは手ごわい。これが私の鎧となるのですね」

忠兵衛「力自慢もおるだろうが職人に要所要所に鉄を縫い込んであってな」

おみね「狡いお方ですこと」

忠兵衛「道楽という道楽を網羅した。一番の面白みは欲しい物を手に入れられない狡

    猾な者の姿を見るのが何より愉快だと気づいてな」

おみね「悪趣味も度が過ぎると変わり者と揶揄されまするえ」

忠兵衛「変わり者は他と違うと言う事。私にとって誉め言葉よ。さぁ、洪庵殿の腹の

    虫が苦虫を潰して居る。装着を、よいな」

おみね「お好きなように」


 おみねの同意を得た忠兵衛は手を叩くと隣室に控えていた女が入ってきた。女は忠兵衛の配下の元くノ一、しずかであり、忠兵衛の護衛の一人だった。おみねはしずかの指示で立たされた。しずかは徐におみねの帯を解いて裾を捲り上げ乳房の下あたりで帯で括り付けた。しずかは事前に異人から取り扱いを学んでいた。自分でも装着し、不備な点を熟知していた。その知識は職人にも伝えられていた。

 しずかは手際よくおみねに貞操帯を装着した。おみねはしずかに足を広げさせ、おみね股間に行燈の火を当て照らした。その行為は、「どうぞ」と言う合図だった。忠兵衛はおみねの股間を覗き込み、男の一物が出入りする場所に指をあてがったが入らなかった。満足した忠兵衛は洪庵にも試すように促したがあっさり断られた。

 しずかはおみねに用を足す場合の注意点や汚れた場合の対処法を耳打ちした。清潔さを保つためしずかは洗い清めることもおみねに約束した。

 



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