第56話 動き出した至極の道楽

 忠兵衛の可笑しな趣向は、顔見世前に噂となっていた。忠兵衛は海運業を活かし、港を持つ大名に江戸で始めた趣向を口コミで広げていった。近隣大名の中でも酒の肴として話が盛り上がっていた。忠兵衛は財政難に悩む大名に金を貸し付けていた。その取り立ての厳しさは大名たちの愚痴の捌け口にもなっていた。中には金策に困り果て忠兵衛を亡き者にしようと暗殺者を雇う者もいたが、忠兵衛の護衛は幾重にも敷かれ悉く闇から闇へと葬られていた。大名たちはお家取り潰しの弱みを握られ、歯向かう気力さへ失っていた。弱みを握られた大名は特産物の販売権を奪われ、強制的に金を毟り取られていた。人の振り見て我が振り直せで多くの大名が忠兵衛に逆らうことはなくなった。逆らわなければ、困ったときに温情とも思える条件で金策を手助けしてくれることもあり、大名たちにとって頼りがいのある一面も見せていた。

 さらに子女や次男・三男の身の振り方や婚姻も顔の広さから行うことがあり、親密さを深めより大名家に入り込む。そこで得た情報は、服部半蔵に流され、半蔵から家康に伝えられた。家康は地元に居ながら各地の大名の動きや関係を知り得ていた。

 家康はいつも傍にいる半蔵が各地の大名の情報を知り得ていることに興味を持ち、半蔵に聞いたことがあった。その時初めて伊賀越えの裏話や情報の出所を聞かされた。家康はその謎の商人に興味を持ったが半蔵曰くは、その商人は大それたことと会うことを拒んでいるとのことだった。家康は、自らの利益・箔付けに好都合な事柄を棒に振る行いから、そのような物に頼らずとも事を成し遂げる裁量があると感じ取り、益々興味を抱いていた。会えない時間が興味を度合いを高める。半蔵と忠兵衛は明智光秀こと天海から人の心の動きを説かれていた。

 忠兵衛は、家康の自分への興味の高まりを半蔵から聞かされ、天海の成長を嬉しく感じていた。「ほぉ~あの光秀様が、あっ、天海殿でしたな。後先を目の前しか見ず動いていたあの光秀様がいまは俯瞰で物事を見るようになるとは。やはり、人は武術より学問の良し悪し、大きな意味で算術だす。故に秀吉様は敵に回すのはあまりにも厄介と判断したのよ」と半蔵は聞かされていた。半蔵もまた忠兵衛と出会い武士の戦い方と違う方法に興味を持ち、新たに天海とい怪しげも魅力的な人物との関りにいいし得ない未来へのわくわく感を覚えていた。

 さて、忠兵衛は家康や半蔵の思いを余所に自分の道楽のための道筋を着実に進めていた。忠兵衛はおみねに歌舞伎や浄瑠璃などの芸能に秀でた太夫としての才覚も身につけさせ、付加価値を高め、高嶺の花とし同時に客の質を高めるのに余念がなかった。客の質を高めることはおみねを守ることになる。そのために遊郭の主である佐助に無理を言って離れを作らせ、しずかを護衛を兼ねた世話役を付けさせ、それ以外のの者を近づけない配慮を怠らなかった。

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