第54話 悪趣味

忠兵衛「おみね、身体検査を受けてもらうよ。生娘かどうかのな」

おみね「私の初めての男になりたいのですか、構いませぬ」

忠兵衛「そうじゃない。生憎、おみねの期待には応えられない」

おみね「じゃ、なぜに」

忠兵衛「商品価値の有無かな」

おみね「で、どうすればいいのです」


 忠兵衛は隣室に繋がる襖を開けた。そこには所見の初老の男が鎮座していた。

おみねは自分が欲望を達せられないから代わりの者を用立てたと思った。


おみね「お相手はそこの者か、遠慮はいらん、好きにするがいい」

忠兵衛「あはははは。そんな悪趣味はもう飽きたわ。あれは医者だよ、お前が生娘か

    調べるためのな」

おみね「調べるってやらなければ分かりますまい」

洪庵 「やっても分からぬ時もあるでな、膜の有無を調べるのよ」

おみね「膜?そのような物がありんすか」

洪庵 「ある、はずじゃ。でも、ない事もある」

おみね「はぁ、それで気が済むなら良きに計らえばよい」

忠兵衛「言うようになったな。環境の変化は人を変えるか、うん、気に入った」

洪庵 「自分の目利きに自画自賛じゃな」

忠兵衛「土に塗れた品を取り上げ磨けば化ける。実に興味深いではないか」

洪庵 「金持ちの道楽に付き合わせられている儂の身になってみろ」

忠兵衛「済まん済まん。この後好きなものを食わせてやるから」

洪庵 「じゃ、どぜう鍋じゃ」

忠兵衛「それでいいのか、遠慮はいらんぞ」

洪庵 「今食いたいものに変わりはないわ」

忠兵衛「欲のない奴だなぁ、欲を持つこともいい事だぞ」

洪庵 「欲を掻くことは身の程を知る事よ。今の儂にはどぜう鍋が相当」

忠兵衛「謙虚な奴だなぁ」

おみね「四方山話は他で咲かせてくださいませ」

忠兵衛「済まん済まん。今日は謝ってばかりじゃ」

洪庵 「希少な刻限を過ごして幸せな奴だ、あはははは」

おみね「また、振り出しに戻るかえ」


 洪庵はおみねの苛立ちを感じて申し訳なさそうに風呂敷を解いて機器を取り出した。それと同時に忠兵衛が連れてきた助手の女が猿股の小さい物をおみねの肩幅より少し広目に設置した。洪庵はおみねを器具の前に座らせた。助手の女がおみねの足を取り右足、左足と猿股に乗せた。「何をする」と驚くおみねを笑いながら洪庵は見て、おみねの着物の裾を大胆に開けさせた。


おみね「あっ、戯け者、この助平」

洪庵 「助平か、懐かしい趣向じゃな」


 洪庵は、おみねの股間を覗いて生娘か否かを調べるための一連の動作だと説明し、おみねの腰に座布団を差し入れ股間の高さを調整した。行燈をおみねの股間に近づけ位置を確認した。次に忠兵衛から送られた西洋の器具で金属で出来た嘴をおみねの股間に近づけ穴に差し入れ、ギイギイとネジを回しながら嘴を広げていった。子供の拳ほどに広がった穴の奥に行燈の明かりを当てた。


洪庵 「うん、儂が知る白い膜がある、生娘じゃ、良かったな忠兵衛さん」

忠兵衛「そうか」

洪庵 「覗いてみるかい忠兵衛さん」


 洪庵の善意は忠兵衛には悪趣味と思え「いや」と丁寧に断った。それに対して洪庵は「なかなか見る機会がないのに勿体ない」と笑って無理押しは止めた。


おみね「ご老体の戯れは終わったかい」


と飽きれた趣向に付き合わせられたおみねは吐き捨ててみせた。

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