第44話 次なる仕掛け

忠兵衛「暫く、新・信長体制を見守ることに致しましょう。その間、光秀はんは、心

    の切り替えに努めてくだされ」

光秀 「分かった。この一晩で何年も過ごした様な気が致すわ」

忠兵衛「お疲れどしたな。別荘は温泉地だす、ゆっくり過去を洗い流してくれやす」


 一方、三河国に戻った家康は機微を返し、光秀を討つための軍を召集し、安土城に向かった。出発しまもなくして隊列に向かってくる早馬に、一同は色めきだった。


武士 「お待ちくだされー、お待ちくだされー」


 大声を張り上げながら、勢いよく近づいてくる武士は、隊列の前で止まり下馬し、膝をつき一礼した。家康一行は怪しむのではなく、無防備にも受け入れた。それほど駆け寄ってきた武士の気概が周りを圧倒していた。とは言え、臨戦態勢を整えるのは忘れないでいた。


武士 「いきなり、道中の妨げとなり、申し訳御座いません。家康様に緊急のご報告

    があり馳せ参じました」


 護衛から状況を聞いた家康は、多勢に無勢に命を懸け現れた武士の覚悟に敬意を示し躊躇なく接見を試みた。将の器が顧みらる場面だった。

 

家康 「そなたは」

武士 「家康公と存じますが、相違御座いませんか」


 言うまでもなく護衛隊は飛び道具も考慮し、武士と家康の間に人の壁を作り緊張を緩めることはなかった。


家康 「いかにも」

武士 「拙者、秀吉様の家臣、高橋喜一郎と申し上げます。急ぎ、お伝えしたきこと

    ありて、馳せ参じました」

家康 「して、何事ぞ」

高橋 「光秀、既に討ち取られて御座りまするー」

家康 「なんと、誰が討った、秀吉様か」

高橋 「土民で御座います」

家康 「土民とな」

高橋 「秀吉様との戦いに敗れ、安土城を目指すも道半ばにして土民の槍にて致命傷

    を負い、その後、自害したとのことで御座います」

家康 「そうか、高橋喜一郎とやら、大義であった。今宵は疲れを労い、戻られたら

    秀吉様に、家康、御報告に礼を申すと、伝えてくだされ」

高橋 「しかと、お伝え致しまする」


 忠兵衛らは見事、秀吉との接見を叶え、道筋をつけよったか、と家康に同行していた服部半蔵は、やっと、機は熟した。後は、家康を取り込むのみぞ、と次なる手の好機を迎えたと思っていた。


 その晩、家康は上機嫌で祝宴に酔いしれていた。半蔵は、家康が酔いつぶれる前に、伊賀越えについて大事な報告があると、耳打ちし、密かに会う機会を得ていた。半蔵とは、伊賀越えの苦楽を共にした仲。それ故、格別な信頼を深めた仲であった。

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