第20話 秘策の準備

忠兵衛「長七郎はんに頼みたいことは、秀吉様が光秀様を討ちに

    くる。その光秀を逃がすこと。その後、影武者の光秀を

    落ち武者狩りに掛ける。任務遂行後、関わった野盗の全

    てを葬って下され。筋書きは、お任せ致します。念を押

    しておきますが、影武者の首を撥ね、顔の皮を剥いで、

    身元が分からない、いや正しくは首実検が出来ないよう

    に始末して頂きたい。首実検は、着衣・鎧などで、身元

    を確定することになるでしょうから。光秀様には生きて

    いても、死んでいても、何かと遺恨を残すゆえ、闇に葬

    るのが一番だす。勿論、これは、二人だけの秘密。も

    し、ばれれば、いの一番に私は、長七郎はんを疑う。そ

    の後は分かりますよね。それ程、重要な役割を長七郎は

    んに頼むのです、次期、頭目はあんさんに任せたい。そ

    れが私の願いです。心して、掛かってくだされ。長七郎

    はんも配下の探偵も、強者揃いですから適任かと」

長七郎「了解しました。探偵の数も最悪を考え、揃えましょう」

忠兵衛「お願いしましたよ」

長七郎「では早速、取り掛かります」

忠兵衛「宜しく、頼みましたよ」


 長七郎が立ち去っと後、越後忠兵衛は、誰もいなくなった地下室の蝋燭の炎をぼんやりと見つめ、薄ら笑いを浮かべて吹き消した。これで、全ての手配は、終わった。

 「うゎ、ははははは。後は、仕上げと参りましょうか」。暗室に忠兵衛の不気味な高笑いのみが響き渡っていた。


 天正10年6月1日、本能寺、茶会当日。


 忠兵衛たちは予定通り、家康をもっともらしい口実を設け、大坂・堺遊覧へと避難させた。その頃、明智軍は山城の国境・老の坂峠を越えた後、秀吉を支援するために沓掛くつかけから西国街道に向かっている、はずだった。


 光秀の心は、決まっていた。


 「森蘭丸より飛脚あり、信長様には中国出陣の馬揃えをご覧になるとのこと」


と、光秀は、京の都に戻る理由を隊に伝えた。一部の重臣以外には光秀は自分の決意を伝えないでいた。嘘をつくならまず、身内から。それが秘密厳守の鉄則。本来なら重臣にも沈黙を保つべきだが光秀には信長の逃走経路を絶つ秘策があった。そのため、現場で突如、決意を告げて混乱を招くわけにはいかなかった。

 

光秀「利三(斎藤利三)、総勢は如何程か」

利三「1万3千は御座あるべし」 

 

 明智軍は、京都・桂川を越えていた。


 本来、信長は本能寺で「家康、討つ」の朗報を待っているはずだった。それが、信長自信の生死を掛けた大舞台を待つことになった。信長は深夜まで、緊張を解すため囲碁の名人、本因坊算砂と囲碁を嗜んでいた。


 一方、光秀は、信長を討つ決意表明を、明智秀光・光忠、藤田行政、斎藤利三、溝尾茂朝ら五人の宿老のみに行い、その時を待った。

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