第21話 演目・本能寺の変・開幕
宿老たちは光秀の決意を聞き、驚きより信長による光秀への理不尽な振舞に対する憤怒の留飲として捉えていた。
利三「目出度き御事」
茂朝「明日よりして上様と仰ぎ奉るべく事、案の内に候」
家臣は、覚悟をしていた。日頃の信長との関係を伺い見て、いつかこのような日が訪れることを、いや、待ち望んでいた。
光秀「このまま暴君信長を許さば、この国の明日はない。私に続
くが良い」
馬首は、東向きに信長のいる本能寺を睨み、立ち並ぶ。
光秀「皆の者、聞けぇぃ。敵は備中にあらず、本能寺の信長にあ
り。いざ、出陣じゃ」
茂朝「今日より、殿は、天下様に御成りなされ候」
と、光秀の号令に続き、溝尾茂朝が続いた。
光秀「徒立ちの者は新しい足半(あしなか、かかとのない草履)
を履け。鉄砲の者は、火種を1尺五寸に切り、その口に火
をつけて五本ずつ火先を逆さまにして下げよ」
それは、臨戦態勢を示唆していた。光秀のもと一枚岩の結束の明智軍。光秀が決意した以上、それに逆らう者はいなかった。寧ろ、兵の顔々は鬱積した憎悪が払拭され清々しいほどに凛々しく
逞しく見えた。
天正10年6月2日の早朝卯の刻頃(午前五~六時)、前列に鉄砲隊を配備し、信長の眠る本能寺の包囲を終えた。信長は、周囲の騒動しさ、馬の嘶きに目を覚ました。
ババババーン。
鉄砲の轟く音で、信長は、床から飛び起きた。
信長「何事。これは謀反か、如何なるも者の企てか」
蘭丸「桔梗の紋が。明智の者と見えし候」
信長「是非に及ばす」
忠兵衛から聞かされた避けようのない劇が幕を開けた。事前に知らされていたとは言え、忠兵衛が言っていたように万事上手くいく保障などない。その危機感を信長は愉しむことに心を決めていた。
信長の命を受け蘭丸は、大量の油の用意と脱出用の堀の確認に暇がなかった。
信長「来たか、一世一代の大舞台、見事に演じきってやるわ」
蘭丸「信長様、すべての準備は整っております。脱出口は、床下
に御座います」
信長「分かっておる、蘭丸、落ち着け、しくじるでないぞ」
蘭丸「信長様こそ、ご無事で」
信長「馬鹿を言え、わしを誰だと思っておる」
蘭丸が初めて、信長に親しく声を掛けた瞬間でもあった。
信長「では、幕の開くのを待つとするか」
ここに詳細が謎多き本能寺の変の幕が切って落とされた。
信長は段取りよく演じて見せた。乱射される中、鉄砲の一撃が、信長の肩を打ち抜く番狂わせ。予想はしていたものの動揺は隠せなかった。
蘭丸が「ひぇ~」と腰を抜かす。そんな蘭丸を鋭い視線を向け正気に戻させた。蘭丸は大きく息を飲むと油を撒き、火を放った。勢いよく炎が立ち上がった。意表をつかれた明智軍の行動が止まった。炎が目隠しになったのを確認し、大男の弥助が現れた。彌助は直様、肩を負傷した信長を背負い、狭い脱出口に向かった。蘭丸は必死の思いで、剥がれた床板を戻し、信長と弥助の後を追った。
脱出口の半ばで忠兵衛たちが手配した護衛と合流した。本能寺近くの民家に通じた洞窟から米俵を積んだ荷車に信長を隠し、一気に真言宗総本山 東寺〔教王護国寺〕へと非難させた。東寺に着いた信長は本能寺を伺える最上階へと導かれた。そこにはイエズス会が手配した蘭学医がいた。蘭学医は直様、信長たちの治療にあたった。皆が皆、軽傷だったのが幸いだった。
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