第47話 寝耳に水

家康「自分が手をくださなくてもイエズス会が信長を始末する。勢力争いが勃発す

   る。光秀は悩んでおったのか…。警護手薄の二度とない暗殺の機会か…。私を

   葬るための舞台を用意したつもりが、墓穴を掘ったか…。ほんにこの世は面白

   いわ」


半蔵「そこに、家康様の暗殺命令が下った。その時、光秀の心は決まったはず。イエ

   ズス会に討たせるより、謀反であれば、上手くすれば勢力図を継承し、波乱を

   呼ぶも下剋上として維持できると踏んだ。そこで光秀はある者を通して、家康

   様を本能寺から遠ざけさせた、と言うことです」


 光秀が通したというある者とは忠兵衛たちの事だったがこれは当然偽りであり、光秀を恩人として差し向けるための家康を取り込む戦略の種蒔きだった。


家康「何と、私を信長様から救ったのは光秀と言うか」

半蔵「左様で御座います。ゆえに、奇襲からも逃げられ、事前に伊賀者を手配するこ

   とができ、伊賀越えもできた。その結果、こうして家康様を三河国までご無事

   にお連れすることができた、と言うことです」

家康「信じがたい、信じぬぞ、信長様が私を…」

半蔵「家康様は、三河国を中心に勢力を拡大されております。長宗我部元親が受けた

   仕打ちは、家康様にも、及んだことでしょう。将来、力を付ける者は味方に取

   り込む。いつ裏切られるか不安なら潰せるときに潰しておく。それが信長様で

   しょう」

家康「そのようなこと…」

半蔵「天下を取ろうとする者は、隙あらばでしょう。家康様も口には出さぬとも天下

   人は夢に思われるはず。それを信長様は、敵とみなされるのですよ」

家康「信長様にとって、私は敵か…」

半蔵「お命を狙われたのは事実」

家康「…」

半蔵「このこと、他言無用でお願い致します。混乱必定ですので」

家康「わ、分かっておるわ。このようなこと、誰に、言えるか」


 徳川家康は、混乱の極みを味わっていた。主君と慕い、亡き後を追う程に思っていた信長が、自分を葬ろうとしていた。主君の敵と命を狙った光秀が、自分を救った。

その光秀がある者に通じていた。ある者とは、誰なのか、知りたい気持ちより、動揺の方が強かった。問たくなる気持ちを困惑から目を背けるようにぐっと抑えた。

 家康は気持ちを抑制した。ここまで話す服部半蔵が、ある者と、言うには時期早々か、隠密にしておく必要があるからであろうと容易に理解できた。

 信じられるのは自ら築いた勢力圏だ、と家康は自分に言い聞かせていた。下克上はある。ましてや、他の勢力圏下に入れば、いつ何時、今回のように裏切られるか分からなかった。

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