第48話 生身の転生

 服部半蔵は、この日を皮切りに光秀が恩人で、信長が敵であったことを、さりげなく幾多に渡って家康に刷り込んでいった。

 家康は本来、寂しがり屋で臆病者。それを、情報や裏付け、信頼関係で補っていた。石橋を叩いて渡る。それが、徳川家康だった。

 半蔵は、命懸けで自分を助けてくれた、謂わば命の恩人。半蔵の忠誠心は、家康にとって心強かった。そんな半蔵の言葉だからこそ、家康自身も耳に入ってきていた。少なくても、半蔵は自分の為に動いてくれている。情報網も持っている。信頼できる男であるという気持ちは、日増しに高まっていた。


 半蔵の家康への刷り込み報告を受け、越後忠兵衛も動いた。

 忠兵衛は、思案していた。光秀の処遇だ。武士でもない、商人でもない、利害関係が生じにくく、また、自活することなく、人目にもつかない場所…。それは、灯台もと暗しの場所にあった。先方に話を持ちかけると、これが思いのほか、好感を持って受諾された。

 

 忠兵衛は、光秀が隠れている温泉地の別荘にいた。


忠兵衛「如何ですかな、隠居生活は」

光秀 「ほんに、そなたの言葉には、剣があるな」

忠兵衛「あはははは。まぁ、気になさるな」

光秀 「それで、嫁入り先ならぬ、婿入り先でも見つかったか」

忠兵衛「ほぉ~中々、言うようになりましたな」

光秀 「そなたの病に侵されただけだ、気にするな」

忠兵衛「よい、よい。それでよい」


 忠兵衛は、憑き物が取れたような光秀を感慨深く、見ていた。


忠兵衛「要件とは、お察しの通り、婿入り場所とはいきませぬが、新たな生き場所が

    見つかったのですよ」

光秀 「何処へ行けと」

忠兵衛「驚きなさるな、天台宗総本山の比叡山で御座います」

光秀 「何と、比叡山とな。本能寺に近いが大丈夫か」

忠兵衛「色々考えて、木を隠すなら森の中、と申しますからな」

光秀 「出家せよと言うのか」

忠兵衛「まぁ、そう言うことになりますかな。隠れキリシタンの光秀はんには酷な話

    しですかな」

光秀 「そのような気遣いは、要らぬは」

忠兵衛「あらまぁ、キリシタンであることをお認めになりましたね」

光秀 「この場に及んでは、そんなこと、どうでも良いは」

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