第49話 気の遠くなる投資

忠兵衛「僧侶は仮の姿。飽くまでも、家康の懐刀になって頂きます」

光秀 「そんなことが、できるのか」

忠兵衛「できるか、できないかは、あなたの努力次第。根回しは半蔵はんが、粘り強

    く仕掛けてくれてますよって」

光秀 「努力とは、別人になりきると言うことか」

忠兵衛「なりきる?ではなくなるのです。努力とは、密教、神道、道教、陰陽師、風

    水学などに精通して頂きます。精通と言ってもそれらしくでいい、人は尤も

    らしい言葉によわいですからな。宗教人ではなく、知識人であれ、と言うこ

    です。特に人心掌握にご尽力くだされ」

光秀 「受け入れ先は快く、受け入れてくれるのか」

忠兵衛「それが、歓迎されましてなぁ。延暦寺を焼いたとされる信長を討った光秀様

    と聞いて、それはもう」

光秀 「そうか、反感贔屓か。私も参加していたがな。まぁ、よい、歓迎して頂ける

    なら、有り難いことよ」

忠兵衛「そこで、いつまでも光秀の名を使うわけには参りません。そこで、お布施を

    た~んとお支払いして天台宗総本山の住職より有難~いお名前を預かって参

    りました。その名は、慈眼大師南光坊天海と申します」

光秀 「大層な名だな…、南光坊天海か、うん、気に入った」

忠兵衛「天海さんのお力を発揮して頂くのは、まだまだ、先の話になりましょう。そ

    れまでは、光秀はんの過去を隠蔽し、光秀はんに関するもので利用できるも

    のは、無許可ですべて利用させて貰います」

光秀 「好きにせい。光秀はもうおらん。遠慮はいらぬは。それより、そなた話し方

    が変わってはおらぬか」

忠兵衛「おおぉ、気づいてくださいましたか、成長されましたな」

光秀 「ほんに、逆なでするのが身についておるな」

忠兵衛「これからは、天下人になられる家康様の参謀としての天海殿にお仕えする気

    持ちで、私も鍛錬致します。見下すような言葉は、今後、どのような災難を

    招くかも知れませんから慎むと致します」

光秀 「分かった。そなたが減らず口を叩けぬような人物になってやるわ」

忠兵衛「ほぉ~頼もしい。その言葉、お忘れなきように、天・海・殿」


 ここに、後に黒衣の宰相・南光坊天海と呼ばれる謎多き人物が、誕生した。

 忠兵衛は秀吉の政権を監視しつつ、天海の成長に惜しみない財力を投資した。同時に家康との絆を深めるため、半蔵を支援した。

 根本中堂付近の山林を伐採し、天海と後の半蔵が選んだ七人衆の住処となる寺を建立した。そこへ定期的に異国の文化を伝える書物や医学書、天文学などの洋書を翻訳したものや原本を手に入れては運び込んだ。また、日々の生活に必要な食物や雑貨も望まれる物は何としても手に入れ届けさせた。


 忠兵衛は「人生最後の大道楽。思う存分夢を見させてもらいましょう」と天海の元を去った。

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