第10話 裏工作は楽しい

 さて、悪夢を今一度、振り替えりましょう。越後忠兵衛の立場から。

 貧窮する諸大名たちに巧みに入り込み、仏の金貸し、鬼の取り立て屋として諸大名たちからは闇の組織を「閻魔会」と称してその中心人物を「闇将軍」と皮肉を込めて呼び、恐れていた。その謎の人物こそ、越後忠兵衛と言う男だった。


 忠兵衛は、窮地に立たされていた。密偵の報告で織田信長が、鉄砲製造・販売の権利を狙っているという情報を得ていた。信長が本気になれば、権力と武力で、一機に奪い取られることは、陽を見るより明らかだった。


 忠兵衛は、闇の会を緊急召集した。

 そこは、白い西洋風の館だった。舶来品で彩られた部屋に、黒檀のテーブル。その上にテーブルクロスが敷かれ、赤ワインが注がれたグラスが、七つ並んでいた。

忠兵衛「本日、集まってもらったのは他でもない。あの信長はん

    のことだす」

小弥太「聞いております、鉄砲の取得利益を狙っている件です

    な」

忠兵衛「そうだ」

蔵之介「私の密偵からも、それは濃厚なことかと」

重 信「わしも聞いた。それも、そう遠くないと」

忠兵衛「やはりな、それぞれの密偵が、色んな見立てから得たも

    のだ、間違はなかろう」

新右衛門「あのお方は金では動きまへん。ほんま厄介ですなぁ」

小次郎「脅しの材料を調べたんですが、あきまへん、どれもこれ

    も使えまへんわ」

長七郎「人質でも取れるか、と調べてみたんですが、我が身大事

    の人や、効果あらしまへんわ。弱みも見当たりまへん、

    にっちもさっちもですなぁ」

重 信「一層のこと、あの世にでも逝ってもらいまひょか、その

    方が楽でっせ」

 一同は一瞬氷ついたが、冗談として、薄笑いが起きた。

蔵之介「忠兵衛殿、何か策でも。で、なければ本日の会は、何事

    で御座いまする?」

忠兵衛「察しの通り、策は…ありますぞ」

小次郎「策でっか…どないなもんだす」

忠兵衛「そう焦りなさんな。その策には、色んなものが絡んでお

    りましてな、ちょいと根回しに手古摺っておりますわ」

長七郎「根回しでっか、何か手伝いまひょか」

忠兵衛「私の策は、可成込み入っておりましてな、綱渡りの危な

    っかしさも伴いますよって、結果がでましたら報告さし

    てもらいますわ。厄介この上なし。簡単な方法があった

    ら教えて欲しいもんですわ、あの暴君、信長を黙らせる

    手立てをね」

 一同は無言で、忠兵衛の方を凝視していた。その沈黙が、険しさを物語っていた。忠兵衛が重い口を開いた。



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