第11話 ガードルは履く物、被ちゃいけません

忠兵衛「気まぐれな信長はんにも、困ったものです。私たちを、

    困らせるなんて。許せませんなぁ。そんな悪戯っ子に

    は、ちゃんとお灸を据えないと、いけまへんなぁ」

長七郎「まさか、暗殺ですか…」


 一同は、冷酷無比、沈着冷静な忠兵衛の発言だけに凍りついた。

新右衛門「本気でっか。そんなことをしてみなはれ、仇討とやら

    で、厄介な輩に命を狙われまっせ、お~怖」

重 信「忠兵衛はん。その顔は、本気とみた。それで、どうなさ

    ると…」

忠兵衛「茶人の今井崇久と千利休、それとイエズス会の宣教師、

    それと羽柴秀吉も取り組みましてね」

長七郎「ほう、秀吉はんも。それで、如何に」

忠兵衛「意外と簡単でしたよ。崇久と利休には利権確保でしょ。

    宣教師には、キリスト教徒になるのを拒む信長は邪魔で

    しょうから、この国から消しちゃいましょうかって、囁

    いた。秀吉はんには棚から牡丹餅・漁夫の利で天下人に

    なれますなぁって。これが、これが思いのほか受け入れ

    られましてね、ちょっと、私も拍子抜けしているんです

    よ、く・く・く・く」

小次郎「命知らずのことを…。流石、忠兵衛はんですな」

蔵之介「それで信長を、如何致す」

忠兵衛「まぁ、それはまたのお楽しみと言うことでご勘弁を。そ

    れにしても、異国の面白い品物をあれやこれや、買い与

    えて、えらい出費ですわ。幾らかは、皆さんにも負担し

    て貰いますよ。上手くいけばね」

新右衛門「それは上手くいけば、安い買い物でおますさかい、安

     生差してもらいます」

忠兵衛「信長はんは、子供みたいな御仁やさかい。玩具を与えて

    おけば、宜しおす」


 忠兵衛は、思い出し笑いを浮かべていた。

小弥太「どうなされましたんや…」

忠兵衛「いやね、こないだ、オランダのおなごが身に付けるパン

    ティとガードルとやらを手土産に持って言ったんですが

    ね…く・く・く、それが、甚く気に入られたようで、そ

    の場で身に付けられましてな、く・く・く、おなごが身

    に付ける物だと言ったのにですよ。お陰はんで見たくも

    ない変わり者を見せられましたわ。それが、面白うて、

    面白うて、笑いを堪えるのにひと苦労させられたのを思

    い出したもんでね」

小次郎「ほんに、信長はんは、変わり者でんなぁ」


 一同は、その光景を想い浮かべ、小腹を抱えて笑った。


忠兵衛「それで、よせばいいのに、絵師を呼んで、裾を捲ったみ

    っともない格好を描かせて、満足気にその絵を眺めて

    は、はしゃいで踊るは、歌うはで上機嫌でね、異国に行

    けば、もっともっと、信長様の知らない物や事柄があり

    ますよって、行かはったら宜しいのにって言ったら、そ

    うかそうか、行ってみたいのうって」

長七郎「それで忠兵衛殿、如何にされる」

忠兵衛「こんなええ機会を逃したら、商売なんか出来まへんが

    な。行きなはれ、行きなはれって、散々煽ってやりまし

    たわ」

新右衛門「それでそれで」


 忠兵衛の話を噺家の語り部のように、一同興味津々期待を込めて聞き入っていた。

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