第42話 狩猟思考には農耕思考
光秀は、忠兵衛に掌握され始めた。忠兵衛は、師弟関係を暗示するために方言と砕けた語りで同意を促し、凛とした語りで悟りと服従を光秀に注入していく。忠兵衛は、緊張と緩和を駆使して、光秀を取り組んでいった。
忠兵衛「信長亡き後、誰が頭に立つんでしゃろ」
光秀 「それは、信長ゆかりの者の中から、選ばれるだろう」
忠兵衛「甘おますなぁ。血縁関係を見渡しても誰もおりまへんがな。独裁者に後継者
なしですわ。仮に誰かが頭首となっても、お供え餅でしゃろ。誰かが裏で糸
を引く。それを聞いてるんでおます。もう少し、掘り下げて考えなはれ。折
角の金脈も逃してしまいまっせ」
光秀 「…遅かれ早かれ、秀吉が抜け出てこよう」
忠兵衛「そうでんがな、人格、才覚、人望を考えれば。備中高松城から山崎まで大軍
を移動させた備中大返し。これには、私らも驚かされましたわ。このような
奇想天外で綿密な発想と行動が、頭に立つ者には必要なんだす。好奇心旺盛
な信長。交渉上手な秀吉。お~怖、秀吉はんには、銭の臭もぷんぷんします
わ。かと言って、秀吉倒しなど私らには荷が重すぎます。下手に動けばこち
らが、潰されますわ。そこで、秀吉の対抗馬として白羽の矢を立てたのが三
河国を中心に勢力を拡大している家康はんです」
光秀 「秀吉殿と家康殿が戦うと」
忠兵衛「私らは、そう読んでおます。正しくは、秀吉没後のことになりますがね。権
力争いとは、そう言うもんでしゃろ。家康はんは疑心暗鬼の塊のような人
や。更に、無駄な争いを避けるために不条理を飲み込む我慢強さ、飴と鞭を
上手く使い分ける才覚がありますさかい。自分が臆病だけに、人の弱さも分
かる。秀吉はんとは、そこが違いますわ。駒としてどっちが動かしやすい
か、答えは簡単でしゃろ。家康はんはお金では動きませんわ。なら、金に変
えられないものを与えればいい。参謀は金で手に入るかもしれまへん。で
も、天下人は孤独なもんでしゃろ。その孤独を補えなえば、懐には入れると
言うことです。懐に入るには秘密の暴露が重要です。敢えて、秘密を握らせ
ることにより、裏切られない安堵を与えるんですよ。ならその秘密はとびっ
きり大きい方がより安心させられると思いませんか。今のあんさん程、この
適任者はおりまへでぇ。そのために私たちは、あんさんを追い込んだんです
から。家康さんと天下を取りをしなはれ。悪い話ではありまへんやろ。時間
は掛かるでしょうが、その時間こそ、家康はんが勢力を付けるための時間だ
と思うております。あんさんを使って家康の心中に深く食い込んでやりまっ
せぇ。死の商人と呼ばれた私たちが今度は、戦のない世を築いてやります。
それが、私らの最期の道楽ですわ」
光秀 「戦のない世であれば、秀吉が天下人となっても同じことではないのか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます