第41話 口術

光秀 「何故、そなたらがそれを行う」

忠兵衛「そうですなぁ~道楽とでもお考えくだされ」

光秀 「道楽か…。大層な道楽だな。…そう言えば昨夜、可笑しな事を言っておった

    な。物の見方を変えれば、事の見方が変わると」

忠兵衛「覚えておられましたか。光秀死す、は最早、諸大名のみならず、民衆の話題

    にもなっております。勿論、それを広めたものも我等が密偵たちに指示した

    もの。あなたが戻りたくても、戻る場所はもうないということです」

光秀 「そなたらは、一体何者なのだ」

忠兵衛「それは、知らぬが仏、言わぬが花、ですよ」


 どこまでも自らの行い、考えの遥か先を行っている忠兵衛たちの行いに光秀は尻尾を巻くしかなかった。


光秀 「喰えぬ奴らだ。しかし、肝心の家康の了承を得ているのか」

忠兵衛「ご心配なく。家康様は無事、三河国に戻られました。落ち着いた頃合を見て

    この度、生還できたのは、光秀様のお手柄によるものとお伝えするつもりで

    す」

光秀 「私が、家康を助けた。たわけたことを、誰が信じる、そんなことを」


 忠兵衛は光秀を持ち上げたり下げたりを駆使して、術中に嵌めていった。


忠兵衛「ほれほれ、それが駄目なのです。陰の将軍とまでは行かないまでも、陰の参

    謀になって頂こうとする御仁が、先々を読めなくてどうなさいます。言った

    はずですよ、真実何て言うものは、見方を変えれば、何とでも変えられる

    と。それらしい情報を少し加えるだけで真実味を帯びる、白にでも黒にでも

    思うようにね」

光秀 「何をどう変えるんだ」

忠兵衛「それは、服部半蔵はんに絵図を書いて渡してあります。あとは、半蔵はん次

    第。仕上げをご覧あれってことで、上手くいけば、報告さしてもらいます」

光秀 「そなたら、なぜ、こんな手の込んだ事をする。聞かせてくれぬか」

忠兵衛「好奇心はお有りのようで、宜しい少しだけですよ。私たちは、あなたがお気

    づきのように商人です。その利権を利益を信長が奪おうとした。大人しくし

    ていれば良いものを。そこに、イエズス会とあなたが、信長暗殺を企ててい

    るという情報が舞い込んできた。どちらに着くのが既得権を守れるかは、考

    えれば分かりますでしょう」

光秀 「済まぬ、私には分かり申さん」

忠兵衛「駄目ですよ、考えもせず答えを出されたら。立場を変え、考えなされ。生ま

    れ変わってもらうためにご無礼を承知で、学んでもらいましょうか」

光秀 「ぜひ、伺いたいな、その学びとやらを」


 行き場を失った光秀は、不貞腐れつつも、忠兵衛の術中に嵌まり始めていた。


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