第06話 悪夢物語
忠兵衛「じゃ、ご期待にお応えして披露させて貰いまっさ。今回
の茶会は、信長はんの思い付き。その機会をイエズス会
が見逃さなかった。そして、光秀はんもな」
半 蔵「イエズス会は布教活動に信長は邪魔だと思っても仕方が
ないが、火薬の原料となる硝石を手に入れるため、イエ
ズス会と良好な関係を保っているのではないのか」
忠兵衛「表と裏でっせ。そうそう、秀吉はんは信長はんに意見は
しませんが、イエズス会の布教活動は日本侵略だと嫌っ
たはる」
半 蔵「そのイエズス会が信長様を狙っていると言うのか」
忠兵衛「弥助はイエズス会の密偵でっせ。信長に恩義を感じてお
り、その信長が狙われていると密告してきましてな。証
拠はと聞くと大砲を茶会に合わせて移動させていると。
それで調べたら本当でしたわ」
半 蔵「信長様は家康様暗殺を企てるも、それが自らの暗殺を呼
び込んだと…」
忠兵衛「墓穴を掘るとはこういう事を言うんでしゃろな」
半 蔵「前門のイエズス会、後門の光秀、と言うことか」
忠兵衛「まぁ、明日の事は神のみぞ知る、でしゃろか。それを見
越して動くのが商人であり軍師でおます」
半 蔵「その軍師の忠兵衛はこの茶会に何が起こると言うのか」
忠兵衛「茶会当日、光秀はんを秀吉はん援軍として本能寺から引
き離す。その光秀はんは、向かう振りして本能寺の信長
を奇襲する。そうなれば、イエズス会は高みの見物でし
ゃろな。そうならなければ、本能寺ごと爆破」
半 蔵「恐ろしいことをさらり言いのけよるわ」
忠兵衛「駒を集めて読み解けば、恐いものも受け止めなければあ
きまへん。そのためにこうして馬鹿にされようが半蔵は
んに話しております」
半 蔵「それで忠兵衛はどう動くと言うのか」
忠兵衛「光秀はんに信長暗殺を成し遂げて貰います」
半 蔵「信長亡き後の天下人は光秀か」
忠兵衛「そうならないのが世の面白さでっせ。私らが調べて結
果、光秀はんは裏工作・根回しが脆弱化と。裏付けのな
い予測を本筋にしていては、転ぶのは明らかでっせ。既
に光秀が頼る大名には内々に通知し、寝返る段取りは出
来ております。本筋を隠して適当な理由を設けてね」
半 蔵「そなたらは大名も動かせるのか」
忠兵衛「金は、身分の壁を意図も簡単に乗り越える武器になりま
すさかい」
半 蔵「では、信長亡き後は誰が天下人に」
忠兵衛「それは分かりまへん。お侍さんの思惑を牛耳る力はあり
まへんわ。ただ、私は秀吉はんやと思うております」
半 蔵「その根拠は」
忠兵衛「予想ですわ予想。根拠何て、ふふふ」
半 蔵「その薄笑いが怖くなってきたわ」
忠兵衛「曖昧過ぎる事を話しても時間の無駄でっせ。なるように
なるですわ」
半 蔵「信長暗殺はなる、か。そして家康様暗殺も」
忠兵衛「そうですな」
半蔵は、忠兵衛の話を半信半疑で聞き入るもその自信のある口調に掛けるだけの価値があると判断した。忠兵衛と別れて隊に戻り、忠兵衛の策通りに送り込まれてくる成りすましの信長からの使者を待った。半蔵はその使者が本当に目前に現れるまで悪夢を見せられた思いでいた。その夢は、儚くも砕かれた。使者が現れ、堺遊覧を告げた時点で気持ちを切り替えた。
半蔵「殿、信長様の気遣いを有難く受けるのが良いかと」
家康「それならそれで最初から何故、そう言われぬ」
半蔵「信長様らしいではありませぬか。呼び寄せたはいいが茶
入・花入・公卿など招待客が多く、殿とじっくり話せな
い。ならば、その間、遊覧して頂き、その後じっくり話そ
うとされたかと」
家康「うん、そうか、そうか」
半蔵は、家康を持ち上げながら、気分よく遊覧に導くことに成功した。その道中、忠兵衛の策が誤っていれば切腹ものだと覚悟を決めていた。
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