蠢く鴉は、闇夜に笑う。

龍玄

第01話 商人と職人

 雪に白鷺、闇夜に鴉。兎角この世は住みにくい。おっさんおっさんどこ行くの?テレビ・新聞、信じちゃ~地獄行き。知らぬ調べぬは、犯罪。見せたいモノだけ見せられて、偏食高まり、生き難い。知らぬは仏見ぬが神、じゃ、過ごしにくい世の中になったもんじゃ御座いませんか。見難ければ見やすく致しやしょう、己の手で。ほら、ここにもいますよ、蠢く者が。悪巧み?か世直し?か。それは人それぞれと言う事で


 

 堺の商人・越後忠兵衛は、せっせと織田信長に貢物を届け、利権を得ようと画策していた。功を奏して信長が手に入れた鉄砲を譲り受けた。


 「忠兵衛、これを作ってみぃ」

 「鉄砲で御座いますか。吟味するには分解せねばなりません。場合によっては元には戻りませんが宜しゅう御座いますか」

 「構わん、数丁、手元にあるかなど興味はないわ」

 「それでは早速、取り掛かりましょう。その際の一手販売は我らの手に」

 「抜け目ないのう。しかし、この利権は堺の利権と致せ。独占は許さん。販売の許諾は儂が決める。それ以外は好きにせい」

 「それで結構です、お約束、お忘れなく」


 忠兵衛は、信頼於ける鍛冶職人・芝辻理右衛門に鉄砲を分解させ、部品と仕組みを熟知させた。芝辻理右衛門は後に徳川家康の命により、口径一寸三尺、長さ一丈、砲丸重量一貫五百匁の大筒を製作して献上した人物だった。


 「忠兵衛はん、これが全てです、で、どうされますか」

 

 忠兵衛は、幾つもの部品の側に番号を記した札を置き始めた。


 「それは何かね」

 「こうして部品ごと発注すれば何を作っているか分からんじゃろ」

 「成る程ねぇ。抜け駆けさせぬためか」

 「それもあるが、こんなものが世に出回っては、弱き者との差が埋まり、戦の形が変わるではないか。それは、宜しくないでな」

 「そこまで考えてのことか、流石、忠兵衛はん。で、独占されるのか」

 「それがそうもいかないのよ。信長様は独占を許されんかった。販売先も信長さんの意向を伺わなければならんのよ」

 「ご愁傷様。それで儲かりまっか」

 「儲かる…それは二の次よ」

 「どういう事かね」

 「各大名に金などない。そこが商いの旨味よ」

 「金がなければ売れないじゃないか」

 「欲しいものがあるが金がない。その金を用立て儲けるのよ」

 「貸し倒れしないのかねぇ」

 「特産物や米、骨董品があるから心配は要らぬは。何より面子が許さない。借金漬けにし、大名に頭を下げさせてやるわ」

 「怖いのう、忠兵衛はんわ」

 「それは誉め言葉だな、私には」


 忠兵衛は、堺の豪商の今井宗久・津田宗及・榎並屋勘左衛門たちに話を持ち掛け、堺を鉄砲鍛冶の町として発展させるきっかけを作った。


 「どうかね理右衛門はん」

 「異人にはいいかも知れんが日本人には重い。そこで鉄の配合、仕組みの再構築を施して作ったのがこれよ」


 忠兵衛は、手渡された鉄砲に感慨深くほほ笑んだ。


 「どうだ、軽いだろ」

 「おお」 

 「威力は同等でも命中率が良くない」

 「命中率か…。あるに越したことはないが実際は、数打ちゃ当たるがいい所でな、気に留める事もなかろうて」

 「商売人は、そうでよかろうが職人の意地が許さんわ」

 「そうか。私は量産できればいい。あとは理右衛門はんに任せるわ」

 「お気楽でいいな、忠兵衛はんわ」

 「お気楽…。職人が根を詰められるのも売りさばいて儲けてのことですぞ」


 理右衛門は、言い過ぎた言葉に反省し、黙り込んだ。それを察して忠兵衛は場を和ませた。


 「儲けとは、儲けさせる品を作る才能とそれを売りさばく才能が表裏一体になってこそ、欲しがる者が金を出したがると私は思うております。理右衛門は、いいものを作る、私はそれを適正価格以上に価値を付け売る。理右衛門はんがおらんと私は儲かりまへんわ。そう言う事でこれからも無理難題をお願いしますが宜しゅうに」


 理右衛門は、忠兵衛の言葉を噛みしめるように「こちらこそ」と返した。兎角、商人と職人では品への拘り方が違う。その調整こそが出来る商人だと忠兵衛は思っていた。





 

 



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