第02話 実質を重視した血が蠢く

 信長から依頼を受けた鉄砲の製造は、芝辻理右衛門の匠を活かし、今井宗久・津田宗及・榎並屋勘左衛門たち堺の豪商と協力することで一大産業となった。


 信長以外の大名も鉄砲の威力を認識していたが何せ高額。織田家は流通の一大根拠地である津島(愛知県津島市)を掌握しており、経済力に恵まれていたからこそ成し遂げられたものだった。信長は近江に進出し、国友(現在の滋賀県長浜市国友町)を鉄砲の一大産地としたほか、大坂の堺を掌握して弾丸や火薬を入手するルートを確立。鉄砲を大量導入するためあぶれ者を雇い入れ、鉄砲の使い方を教えて「鉄砲足軽」を養成した。

 長篠の戦いでは長篠城を1万5千もの武田軍に包囲されたが、信長・家康連合軍は鉄砲を使い、わずか500の兵で応戦。天然の要害は重要な要因であることは否めないが勝利し、戦術に大きな分岐点を齎せた。

 

 信長に仕えていた羽柴秀吉は算術に長け、自らが天下を取る際、鉄砲が大きな武器になるとともに鉄砲製造の利権は、敵を跪づかせる交渉の決め手になると考えていた。忠兵衛は秀吉と巧みに繋ぎを取り、深い関係を築いていった。秀吉もまた今井宗久・津田宗及・榎並屋勘左衛門たち堺の豪商のように利権に注目するだけの商人ではなく、政権に興味を示す忠兵衛に興味を抱いていた。その忠兵衛に秀吉はこう言われた。


 「秀吉様。信長様は算術より感性で動かれるお方。長続きはしまへんわ。となると次は秀吉様かと」

 「買い被りだ」

 「そうでしゃろか。気分屋の信長様のご支持に全て応えられる対応力の良さにほんと、関心させられます」

 「それが主従関係であろう」

 「それを言っちゃ~お終いでっせ。私が言いたいのは、秀吉様が、無理難題を楽しんでいるように見受けられること」

 「楽しいか、相違ないわ。如何にすれば成し遂げられるか。思案は我が身を育てるでな」

 「秀吉様は、武術より算術で天下取りを考えておられる。信長様の行く末は見えませぬ。これは従う者に不安を与え、不確かが冥府魔道に導くと思うております」

 「信長様の天下は長続きしないと」

 「そら分かりまへん。ただ、言えることは今日の約束は明日の破棄、ではこの世は混沌とし、従う者は信長様の顔色ばかり気になり窮屈この上なしでっせ」

 「それは力量の差、では」

 「そうですな。私も否定しませんわ。けど、その力量を引き出すか、見限るかでは周囲の者の育ち方に大きな差が出まっせ」

 「忠兵衛が言いたいのは、下が育たぬは、廃墟の途、という事か」

 「そう思いまへんか」

 「ふん、面白いの~忠兵衛は。私が殿にそなたとの話を聞かせたら如何する」

 「構いまへんでぇ。口八丁手八丁で乗り切って見せます。上手くいかなければ、銭勘定から解き放たれて清清させて貰いますわ」

 「肝が据わっていると言うか怖いものなしと言うか、ほんに面白い男よ」

 「おおきに」


 このような会話を会うたびに繰り返すほど馬が合ったのか、秀吉と忠兵衛は関係を深めて行った。


 

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