第27話 いつの世も「野盗」は厄介者

長兵衛「死にたくなかったら、身ぐるみ脱いで、立ち去れ~」


 野猿のような男が、ほざいた。野猿の正体は、土民(百姓)の中村長兵衛。長兵衛たちは雇われて戦に、職に溢れりゃ落ち武者狩りに。傷つき逃げる侍を、待ち伏せてお命頂戴。鎧や刀を奪って売って、酒、女を買っていた。運がよければ、武将の首は、高値で売れることもある。


茂朝 「無礼であるぞ。この方をどなたと心得るか。明智光秀様なるぞ」

長兵衛「明智だって、お前ら、知ってるか」

野盗A 「知らねーや、俺たちに武将の名前なんて聞かせたって、無駄だ無駄」

野盗B「そうだ、そうだ、俺たちは、口入れ屋役の侍にしか知んねーだ」

茂朝 「この方は、今や、飛ぶ鳥を落とす、織田信長を討ったお方だ」

野盗A 「えっ!あの織田様をか」

茂朝 「そうだ、我ら先を急ぐ、そこをのけーぇ、のけーぇ」


 慌てて、怯んで、山道の下へ。落ち武者狩りも人の子よ。


茂朝「危のう、御座ったなぁ、光秀様」

光秀「ああ、先を急ごう、いつ舞い戻って来るか分かるまいて」


 茂朝は影武者を見て思った。こ奴、板についてる、訓練の賜物か…恐るべし。


茂朝「そう致しましょう。一同、急ぐぞ」


 ああ、勿体無い、勿体無い。諦めの悪さは、悪人の本望です。


野盗A「驚いたなぁ」

野盗B「あぁ、あ奴が織田様を討ったとわなぁ」

野盗A「知らねぇって咄嗟に言ったけどよ、腰が抜けそうだったぜ」

野盗B「でもよう、後ろにいた奴ら、誰も駆けつけてこなかったな」

野盗A「ああ、おかしいぜ、何かが」

野盗B「きっと、でまかせだぜ。そう言えば、俺らが腰抜かすって思ったんじゃねぇ

    か」

長兵衛「そうだ、きっと、俺ら、いっぱい食ったんだぜ…畜生」


 無謀に飛び出し、引き下がり。それでも諦め、消え去らぬ悪党たち。


長兵衛「勘太の奴、ちゃんと後、つけてんのか」

野盗A「もう、真っ暗だ、休み休みか、どっかで休むに決まっている」

野盗B「いまからでも遅くねぇ、追いかけて、やっちまおうぜ」


 落ち武者狩りの勘太が残した道標。それを頼りに、ひたすらこっさ。明智一行、先を急ぐも、行く手を阻むは、豪雨と闇。


茂朝「もう、追ってきまい、闇夜は危ない。心して参ろう」


 明智軍が少し開けた場所に差し掛かる。落ち武者狩りの幹太は、掌を重ねて獣の鳴き真似をし、長兵衛に連絡を取った。反応はすぐにあった。


 落ち武者狩りの長兵衛は、気を引き締めた。


長兵衛「近いぞ、慎重に行くぜ」

 

 明智五宿老の一人・藤田行政は、行先に不安を感じていた。


行政「何やら、獣がおりそうな、夜分、動くのは危険かも知れませぬな」


 茂朝は、行政の提言を受けだからこそ、抜け切りたかった。


茂朝「しかし、先を急がねば」


 三重苦。ぬかるんだ足元、闇、豪雨。それでも先を急がねば。敗戦の悲壮感、疲れ果て。身も心もズタズタです。その時、谷側から男が飛び出て、馬上の武士の右脇腹をぶぎゅっ。


光秀「うぐぅ」


 刺された武士は、鈍い呻き声をあげ、落馬した。


行政「光秀様~」


 その声は、山合にひと際、大きく響き渡った。

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