第26話 歴史を変える一幕が上がった。

半蔵「手荒な真似を致しましたこと、お許しくだされ。私は、徳川家康家臣・服部半

   蔵と申す。利三殿が最もこの状況を理解されていると察し、お話申す。秀吉の

   包囲網は緊迫しておりまする、時は御座いませぬ、我らに光秀様をお預けくだ

   され、必ずや、いや、できる限りの手立てをお約束致します。このままでは、

   間違いなく道は閉ざされますぞ。利三殿、この通り、ご理解くだされ」


 半蔵は、片膝を付き、頭を垂れてみせた。


利三「何故、半蔵殿はこのような…」

半蔵「主君への思い、主は違えどお分かり申す、とでもして於いてくだされ」


 しばらく利三は考えた。命を奪うなら幾重にも機会はあったがそれをしなかった。礼を尽くす態度からも敵ではない。寧ろ、救世主のように思わせる人格がこの男からは感じ取れた。


利三「…承知致しました。ここまでされるのは、覚悟を持ってのこと。影武者まで用

   意されての行いに光秀様の無事を願う気持ちに偽りはないと、信じて候」

半蔵「有り難い。それでは利三殿には、お頼みしたいことが御座います。ここは危険

   です。場所を変えてお話致します。その前に、影武者の隊を坂本城に向け、出

   立させてくだされ」

利三「承知した」


 利三は、隊の体制を速やかに整え、勝竜寺城を後にさせた。その後、場所を移し、利三は、半蔵に光秀拉致の理由を聞いた。と言っても詳細は聞かされなかった。ただ、光秀を守る、その意志の高さは理解出来た。いや、正しく言えば半蔵と言う男を信じてみよう。闇に指す一縷の望みに掛けて見たくなった。


 明智軍が京都・小栗栖を進む頃、閻魔会は、任務遂行に向け、活発に動いていた。

 閻魔会の蔵之介は、探偵から光秀拉致の報告を受け、直ぐに、小栗栖近くの落ち武者狩りたちのいる村に繋ぎを取らせ、情報を流した。


 その村の落ち武者狩りの長は、中村長兵衛だった。


旅人 「長兵衛はん、知ったはりますか」

長兵衛「何をだ」

旅人「大層な鎧を着けた侍が、小栗栖を通ることを」

長兵衛「何者だ、そいつは」

旅人「それは知りませんが、さっき来た私の連れが見たらしいですよ」

長兵衛「本当か」

旅人「ええ、しっかり見たと。それもすぐ近くまで来てると」


 長兵衛は、直様、仲間を集め、身支度を済ませ、手馴れた様子で奇襲先を定め、その場へと目指した。旅人は閻魔会の蔵之介が用意した探偵が扮したものだった。探偵は旅人に扮し、村長の懐に入り、落ち武者狩りの集会場を聞き出した。村長の紹介だと集会所を酒と摘みたんまり用意して、旅の話として武勇伝を聞きたいと長兵衛たちに近づいた。



 横殴りの雨は、闇の京都・小栗栖を覆っていた。


 馬に乗った一人の立派な出立いでたちのお侍さん。護衛ふたりに、十三騎の伴と、とぼとぼと。漆黒の闇と激しい雨が行く手を阻む。主君を見限り、討ったはいいが、追われ追われて山道を、俯いて歩いております。

 雨音混じり、ガサガサガサと、何やら殺気を感じます。バサバサバサ。覆い茂った枝葉が、大きく揺れる。そこへ現れたは、落ち武者狩り。あれよあれよと囲まれた。

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