第38話 異世界の幕開け

忠兵衛「刻が来るまでここで寛ぎ、今後のことをお考えくだされ。最早私にも謀反を

    起こされるとは思いませんが、念の為、監視させて頂きます。外に出る以外

    は館の中を自由にお使いくだされ、では、その刻が来ましたらまたお伺い致

    します」


 激変した環境で光秀は、考え込んでいた。奴は一体何を言っているのだ。家康の影の参謀…、私は何を待たされているのか…、彼らは何者か…を考え始めると、落ち着かない時間を過ごすしかなかった。


 光秀が、監禁されている同じ頃、閻魔会は任務遂行に活発に動いていた。

 計画通り影武者を織田陣営に差し出し、秀吉を筆頭に、明智光秀は葬らたという事実を作った。


 溝尾茂朝は、決心していた。理由はどうであれ、光秀を拉致し、裏切った後ろめたさと、闇のからくりを表に出さないためにも、自害することを。それは茂朝と通じていた藤田行政も同じだった。


 行政の事後処理の一部始終を見守った探偵は、狼煙を上げた。その狼煙は、火の見櫓替わりに木の上で監視していた者から、幾つもの中継を経て越後忠兵衛へと伝わった。


忠兵衛「宜しおますなー、これはめでたいわ、くくくく」


 優雅な監禁先で寝ていた光秀は起こされ、部屋から連れ出された。使用人に案内されて入った部屋には、忠兵衛と左右に三人の計七人が、西洋製の食卓を囲っていた。楕円形の食卓の上には、カステラとワインが用意されていた。

 光秀は、越後忠兵衛の対面に座らされた。この時ばかりは、ふざけた忠兵衛の雰囲気が凛として見えた。


忠兵衛「嫌な思いをさせて、申し訳ございませぬ、一同を代表して、これ、この通り

    で御座います」


 一同は、席を立ち、徐に頭を下げ、暫くして着席した。光秀は、影武者が無事に安土城に着いた、と思っていた。


忠兵衛「ワインではありますが、新たな夜明けの兆しに、かんぱーい」

一同 「かんぱーい」


 光秀は、意味が分からず、呆然とその光景を見ていた。


忠兵衛「会食しながら、お話しましょう、みなさんどうぞ、ご自由に。さぁ、光秀様

    もどうぞ、オランダから手に入れたパンと紅茶というもので御座います。毒

    などは入っておりませぬから、さぁ、どうぞ、どうぞ、ほれ、この通り」


  忠兵衛はにこやかにパンを人齧りし、ワインを一口飲んで見せた。他の者も同じように振舞った。それを見ていた光秀は、ここは郷に入らば郷に従えと恐る恐るパンを手にして口に運んだ。柔らかい感触にもちっとした歯ごたえ、経験したことのない味に戸惑っていた。


忠兵衛「光秀様に、ご報告が御座います」 

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