第34話 裏取引

光秀 「そなたら、一体、何者なんだ」

忠兵衛「その内、分かりますよって、お楽しみに。あっ、自害なんて物騒なことはあ

    きまへんでぇ。残された明智家、それを助けようとした大名はんらも道連れ

    になりまっさかい。娘はんはまだ若いんでしゃろ、かわいそうでおますわ」

光秀 「…」

忠兵衛「私を甘く見ては大怪我じゃ済まないと心しておいてくれやす。ほな、また、

    時期が来ましたらお逢いしまひょ。ほな、さいなら」


 光秀は、また、暗闇の瞑想に包まれた。眠気など元々ないがあれやこれやと頭の中は大混乱。目が覚めながら、闇の中に悪夢を見ていた。


 斎藤利三は隊に戻された後、急展開に戸惑いながらも影武者である明智光秀とお家のためにと自害した溝尾茂朝と長友慎之介の首級を延暦寺の麓にある坂本の詰所に運び込もうとした。その様子を伺っていた服部半蔵は、配下の佐助に詰所の役人宛に手紙を託すと、馬を飛ばし山崎にいる羽柴秀吉の元へと急いだ。


半蔵「お目通り、お頼み申す。私は、徳川家康の家臣、服部半蔵と申す。光秀の件に

   つき火急にご報告致したきことが御座います。羽柴秀吉様にお取次、お願い申

   す」


 半蔵の申し出を受けた秀吉の家臣は疑いながらも秀吉に伝えた。


秀吉「家康の家臣が、光秀の件についてだと…相分かった、許す」


 お目通りを許された半蔵は秀吉の家臣に囲まれながら秀吉と接近を叶えた。


半蔵「お目通り、叶えて頂き、有り難き幸せ。拙者、徳川家康の家臣、服部半蔵と申

   す。光秀の件につき、火急のご報告とお願いがあり、馳せ参じました」

秀吉「して、報告とは如何なるものよ」

半蔵「光秀の首、今頃、坂本の詰所についた頃かと」

秀吉「何、光秀の首が」

半蔵「はい。明智軍の者により、差し出される運びとあいなっております」

秀吉「誠か」

半蔵「光秀、秀吉様との戦いで深傷を負い、明智軍を苦慮し、自害なされたとのこ

   と。見事、光秀の首を射止められたのは秀吉様で御座います」

秀吉「うん、そうか。うははははは。光秀の首、この秀吉が取ったぞ」

半蔵「この功績、誇るべきことと、お慶び申し上げます」

秀吉「ああ、大義であったぞ、半蔵殿」

半蔵「身に余る光栄」

秀吉「褒美を取らせる。何でも言うがよい」

半蔵「有り難き幸せ。秀吉様におかれましては、山崎の戦いで、光秀をご覧になられ

   たでしょうか」

秀吉「いや、見ておらん、それがどうした」

半蔵「ならば、お恐れながら、拙者の話の信憑性を証すため、光秀を見た者をここへ

   呼んで頂けませぬか、是非ともお願い申し上げまする」


 秀吉は直様、側近に命じた。


 秀吉「…まぁ、よい。早急に探し出し、連れて参れ」

 

 半蔵に持ち上げられた秀吉は、上機嫌だった。いや、半蔵の思惑通りのことに。

 しばらくして、三人の兵が連れてこられた。


半蔵「早速のご配慮、忝く御座います。この者たちに聞きたいことが御座いますが宜

   しいでしょうか」

秀吉「構わぬ、許す。その方らも答えるがよい」 

半蔵「では、遠慮なく。皆に聞きたい、いや、教えて頂きたい。そなたらが見た光秀

   の首に何かなかったか」

家臣「何かと申されても、何もなかった…と」


 残りの者も顔を見合わせながら、首を左右に振っていた。


半蔵「そうですか。皆さん、有難う御座います。お下がり頂いて結構です」


 半蔵は秀吉に目で合図し、それを受け秀吉も頷いて見せた。

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