第33話 史実の闇の出来事

利三「お許しくだされ、光秀様」

光秀「なぜ、そなたが、そなたがそこにおる」

利三「秀吉との戦いに苦戦し、光秀様のお命危なし、となった時、何としてもお守り

   致したかった。援軍の道も危うくなったことを知り、藁をにも縋る思いで、こ

   やつらの企てを飲んだ所存で御座います」

光秀「いつから、こやつらと繋がっておった」

利三「信長様を討った後で御座います」

光秀「なんと…」

利三「光秀様と同じように、拉致され、光秀様の現状を知らされました。それにも増

   して、この企てに加担したのは…」

光秀「何を吹き込まれた、何を」

利三「それが…それが」

光秀「何じゃ、何を言われた」

利三「それは…それは…信長が、信長が」


 そう言うと、斎藤利三は大粒の涙を流し、泣き崩れた。扉は静かに締まり、部屋は、また闇に覆われた。


忠兵衛「宜しおます。私からお話致します。あんさんと同じく囚われた溝尾様は、隊

    列に戻り、光秀はんの影武者を光秀様と思い、お守りくだされた、有難いこ

    とです」

光秀 「お守り下された…。何を言っておる」

忠兵衛「あんさんが討った信長の遺体は発見されましたか。されてまへんでしゃろ」

光秀 「…」

忠兵衛「それはそのはず、信長はんは死んではおりまへんからな」

光秀 「なんと、信長が生きていると…」

忠兵衛「そうでおます」  

光秀 「そんなはずはない」

忠兵衛「では、なぜ、亡骸がありまへんのや」

光秀 「いや、確かに亡骸がでて、極秘裡に信長ゆかりの寺に埋葬されたはず」

忠兵衛「面白おますな、それこそ、誰の亡骸を埋葬されたのか。あの焼け跡で本人確

    認など難しいでしょうに」

光秀 「それは…」

忠兵衛「あの大火の中、助け出したのも私たちですから」

光秀 「それでは、信長はどこにいるというのだ」

忠兵衛「さぁ、どこやらの海の上で御座いましょうな」

光秀 「海の上」

忠兵衛「あなたの謀反も事前に告げてありましてな。信長の命を狙っていたのは、あ

    んさんだけはなかったものでね。知ったはりまっしゃろ」

光秀 「イエズス会か…」

忠兵衛「まぁ、いいではありませんか、今となっては」

光秀 「…」

忠兵衛「そうそう、家康様も私たちが逃がしておきましたから、ご安心を」

光秀 「なんと、家康殿も」

忠兵衛「そうでおます」

光秀 「そなたら、堺商人か」

忠兵衛「ほぉー怖。流石、私が見込んだお人ですわ。嬉しく思いまっせ。まぁ、犯人

    探しのような真似は、無意味で御座いますゆえ、緞帳を下ろして貰いまひょ

    か」

光秀 「貴様」

忠兵衛「家康はん救出。あれは大変でした。もう少し、手配が遅れたら、危のうおま

    したは。万が一を考え、服部半蔵はんに護衛をお頼みしてましたが、多勢に

    無勢。ああ、密偵の報告を見てきたように話しますが、そこは、ご勘弁を。

    そうそう、追手を半蔵さんが相手してる僅かな隙を狙われて、家康はんの乗

    った籠に槍がブスリ。あぁぁ、万事休す、かと思ったら、あの方、運がいい

    というか、腰を抜かした状態で、籠から這い出してきやはった。怯えた猫が

    逃げるように情けない格好で、寺の縁の下に潜り込まはった。それが良かっ

    た。追手の方がそこに入ろうとした所に、半蔵はんが、繋ぎをとってくれて

    いた援軍が来て、その追手を一網打尽に。何とか難を逃れました。家康はん

    を引っ張り出したら、く・く・く、いや、失礼。あの方、小便を漏らしてい

    て、く・く・く・く。兎に角、籠へ放り込んで行ける所まで行って、あとは

    徒歩で。半蔵はんと伊賀の者の手引きで、伊賀国の険しい山道を抜け、加太

    超えを経て伊勢国から海路で、三河国に辛うじてご帰還願った次第で。信長

    を討った明智軍に命を狙われていると知った家康はんは、自暴自棄になって

    後追いをしよとしましてな。それを、本多忠勝様が説得されて、何とか事を

    得ました。ほんま、あれは予想外でしたわ。家康の人成は調べておりました

    が、ここまで腰抜けとは…。まぁ、本多様には、後でお礼でもしときますよ

    って。これで、当初の予定通り、伊賀者は、家康に恩を売れたさかい、今

    後、色々、安条いきましゃろ、色々とね」

光秀 「私は家康殿に追手など出しておらん」

忠兵衛「はい承知しております。送ったのは信長ですさかい。あんさんも知ってはっ

    たんでしゃろ、茶会の意味を」

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