第13話 天下の大芝居
忠兵衛「まぁまぁ、落ち着きなはれ、まぁまぁ」
忠兵衛はやんちゃな子を諭すように言った。
信 長「これが、落ち着いておられるか」
忠兵衛「ほな、聞きますが、先の見えたこの世に信長様の探求心
を満たせる物が御座いますでしょうか。他に術があれば
教えて頂きとう御座います」
信 長「それはそうだが、わしが死んでは、元も子もないではな
いか」
忠兵衛「誰が、ほんまに死んでくれなんて、本人を前に言います
かいな。私は、そんな命知らずやおまへんで。私とて商
人の端くれ、そんな命の安売りは勧めまへん」
忠兵衛は敢えて語気を荒立て対等の位置にこの場面を置けるように仕掛けた。
信 長「本当には死なない…とは、どう言うことか」
忠兵衛は尻込みせず信長を見つめる事で、何らかの確信を持った考えに興味を抱かせた。
忠兵衛「ほれ、それですがな。信長様がどこかの糞大名に戦で負
けた、これは、信長様の功績に大きな傷を付けるし、負
けず嫌いのあんさんには、不向きで御座います。かと言
って、異国に行けば、行ったで、国外逃亡や仏教徒から
は、ほら撥が当たっただの、隠れキリシタンなどからは
厄介払いが出来た揶揄される。残った織田家の方にも、
どんな非難が浴びせられ、窮地に追い込まれるやも知れ
まへん」
信 長「四面楚歌、八方塞がりではないか」
忠兵衛「そこで、天下の大芝居を打ってみてはと」
信 長「天下の大芝居とな」
忠兵衛「そうでおます、勿論、主役は信長様で御座います。明智
光秀様、羽柴秀吉様、徳川家康様ら重臣さんたちにも、
一泡も、ふた泡も、く・く・く、これは失礼致しまし
た、吹かせて貰うおと思うております。それ程、大掛か
りにしませんと、面白くおまへん。同じやるなら、大衆
演劇のひとつにもなって、世間があっと驚く位のことを
しまへんとな。世間が騒げば騒ぐほど、噂や嘘が入り交
じり、真相は闇の中に。人の口には、流石に私でも、戸
を建てられまへんですがな。それに、出しゃばった奴
が、重箱の隅でもほじくり返す、なんてなったら、折角
の大一番も、何処へゆくやら、たまったもんじゃありゃ
しまへん。しっかり筋書きを用立てますよって。どうだ
す、天下の大芝居、面白おまへんか」
信 長「して、その天下の大芝居とやらは、どのようなものだ」
忠兵衛「おっ、興味をお持ちくださったか、では、この越後忠兵
衛の書き下ろした筋書きをとくとお聞きあれー、トトン
トントン」
信 長「調子に乗るでない、能書きは良い、早う話せ」
忠兵衛「これは、失礼致しました」
忠兵衛は、図に乗ったことを反省し、深々と頭を畳につけた。
信 長「さぁ、早う、早う、話してみよ、さぁ、早う」
忠兵衛「そう、焦らさないでくだされ、これでも、下準備にどれ
程の時と金を使ったか。まぁ、それは、こっちの問題で
信長様と関係おまへんけどね…」
忠兵衛は、一瞬、しまった、と思った。信長の承諾なく、下準備を進めていることを悟られたのでは、と思ったからだ。忠兵衛の用意した筋書きは、信長の為を思ってと装って他の目的があることを。
信 長「下準備、とは何か」
忠兵衛「嫌ですよ、信長様。芝居を書く時、色々と下調べをしな
いといけまへんがな。そうせんと、絵に描いた餅に成り
兼ねませんがな、そうならないための下調べのことです
よって」
信 長「おお、そうか」
その場をやり過ごし、ほっとした忠兵衛は、意図的に口調を変えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます