3章 せめて青春部ヒロインズの関係を見届けるまでは
3-1
我が校のメイン行事の一つ、学園祭が無事に終わりを迎え――――翌日、放課後。地味すぎる男ことこの俺、神宮寺善慈は特にすることもないので青春部の部室でくつろいでいた。
「……ああッ、再来週に期末テストかよ。マジ面倒だ」
まさに天国から地獄とはこのこと。……いや、学園祭を天国だと認識していたと言ったら嘘にはなるか。ま、この部に属する黒髪ロングレベルの性格の悪さだな、行事決めをした連中は。
窓際の九つの机から構成されるゾーン、俺の対面に座るいろいろと対照的な二人の女子も、
「ううう、やーだぁ!! 勉強したくないよぉ、遊んでたいよぉ!!」
自身の頭に形作られた双対の団子を鷲掴みにし、苦痛を堪えるようにブンブンと頭を振るのは、金髪童顔隠れ巨乳娘な部員ナンバー4、織川舞夏。
暴れることはしないものの、落胆を見せるように大人っぽく溜息をつき、
「……はぁ、ほんと気が滅入るよね。なんやかんやで学園祭楽しかったし……。これから勉強する気にはなりません……」
ガックリと、丁寧に手入れされている黒髪とともに肩を落としたのは部員ナンバー2、桜庭かなえ。
「……テストを考えるのはやめよう。暗い話題は避けるに限る」
「善慈くんに同意。気持ちを暗くするためにここ来たんじゃないし」
「うんうん、明るい話題で盛り上がらないと」
明るい話題ねぇ、今は特に思い浮かばん(いつもだろ、というツッコミはしないでくれ)。
しかれど、盛り上げ上手の織川は愛らしい顔を緩め、
「かなっち、
「あっ、それ舞夏ちゃんが訊いちゃう? ふふん、私に対する嫌味かな?」
「ちっ、違うよ! そんなつもりで……」
「ごめんごめん、舞夏ちゃんがどんな反応するかなってイジワルしただけ」
頭を織川の肩へと傾げ、冗談めかしく笑った黒髪ロングの女。
「む~っ、かなっちのイジワル~」
とは言いつつも、嬉しそうに桜庭とじゃれ合う織川。小悪魔と天使なクセして、このように互いの相性は悪くないのだ。
そしてそんな二人を見ていると、去年の出来事をふと思い出してしまった。
「仲良さそうだな、お前ら。去年のことが考えられんわ。ちょうど去年だったよな、アレ」
感慨深げという名の生気の薄い顔で空に向かって呟くと、桜庭と織川が同時に俺を見定めて、
「もう一年か……。時間が経つのはあっという間だね、まったく」
「えへへ、思い出すと恥ずかしくなってくるかも。……でも、あれがあったから今のあたしたちがあるもんだしね」
そのとおり、去年のあの出来事が桜庭と織川の……、それと同時に青春部にとっての一種の分岐点になったのだから。
「あん時はほんっとうに胃が痛くなった。あのギスギスっぷりは二度と味わいたくねぇな。板挟みになる地獄はあれが初めてだったわ」
桜庭は苦笑い気味に口元を綻ばせ、
「ごめんね、善慈くん。私の配慮が足りてないばかりに」
織川も、笑いを含ませながらも申し訳なさそうに、
「いろんな人に迷惑かけちゃったもんね……。あたしがもっと大人になってれば、って今でも思ったり」
んまぁ、今は全然怒る気にはならねぇな。むしろいい思い出だったのだと達観しても結構だし、起きてくれてよかったんじゃないかとさえ思えてしまう。
「明るい話題とは言わないまでも、去年のアレ振り返ってみないか? テストの話するよりかはマシだろ」
「へぇ、過去を振り返ろうだなんて珍しい。黒歴史でいっぱいの善慈くんが」
言うほど黒歴史はないわ。たしかに過去を振り返ることは珍しいが。
「でもいいんじゃない? 私も善慈くんに賛成」
「あたしも賛成。今と比較してみるのも面白そうだし」
二人も賛成してくれたことだし、それでは今から――一年前の学園祭について回想してみよう。長くなる回想だが、一から終わりまで余すことなく思い出していきたい。
そう、これは『友達』という名の人間関係がつくり出した物語。――――苦くて甘酸っぱい、けれども爽やかな青春の一ページ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます