1-6

 翌日。


 本日もまた俺と、本日のヘアバンドは赤と黒のチェック柄な桜庭の二人しか部室には来なかった。元々週二~三回程度顔を出せば許される部活なので、こんなこと特に珍しくはないが。


 昨日訪れた相談者、浅間さんは今、調理部の活動最中。ちなみにあの銀髪ロング、浅間さんにとってのライバルであり友達でもある赤池さんも同じ調理部らしい。俺たちは調理部に出張するわけにはいかないので、こうして部室で適当にくつろいでいた。

 俺は窓際の九つの机が集まった島を贅沢に用いて宿題を、桜庭かなえは相談者窓口で携帯ゲーム機に身を投じていた。


 さてと、数学の宿題もそろそろ佳境に入る。手こずりつつも解き終えたあの麻薬のような達成感を味わいたいがために己の心に鞭を打つ。


「桜庭はいるか?」


 入ってきたのは顧問の榊原海音だった。

 たしか榊原はこの青春部のほか、調理部の顧問を担当している。ちなみに我が校には多数の部活や同好会が存在し、一人の教師が複数の部の顧問を担当するケースが多い。

 心の落ち着きを少しは取り戻したのか、桜庭が呼吸を整えて訝しげに、


「浅間さん、部活の最中に何か……」


 榊原教諭は深刻そうな顔で頷き、


「仲違いってヤツか? あれだけ仲の良かった遊來……赤池遊來って同級生と険悪な雰囲気で……、今日の調理実習でな。あんなの初めて見たよ」

「おかしい……、昨日は仲良さそうだったよな、桜庭? たった一日で変わるもんなのか?」


 桜庭は考え込むように顎を指で触れ、


「……昨日は仲良さそうに見えた? ……いや、一概にはそう言えないよ」

「どういうことだ?」

「うん、たしかに昨日は三人とも楽しそうにしてた。でもね、それって間に日比野くんが入ってたからじゃないのかな? もしかしたら浅間さんと赤池さん、二人きりになった場合の状況が冷え切ってるのは、実は昨日より前からじゃないかなって」

「なるほど、ありえるかもな」


 浅間さん、赤池さん、どちらも想い人の日比野に余計な心配はかけたくないから、日比野が間にいる場面では仲良く取り繕い、そうではない場面では互いに牽制し合う状況。

 榊原は申し訳なさそうに、


「すまない、修羅場の対処は私一人の力じゃどうにも……」

「とりあえず先生、調理室の様子を見に行かせてもらえませんか? 二人の様子を確認してみないことには……」


「そうだな、一緒に行こうか。今は片付けの最中だ、すぐに解散になる」

「じゃあ桜庭、すぐに行くか。行く前に解散になったら元も子もねぇし」

「そうだね」

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